君が隠した鍵
一人では何も始まらないということはきっとみんながみんな知っていることでした。当然、一人で砂をいじっていた僕は何もできないわけです。そこに君がやってきたのです。
いろんなことを知りました。それは遊びだったり、物の名前だったり、ルールだったりしました。でも一番不思議なのは気持ちでした。僕は楽しいを知りました、嬉しいを知りました。そして寂しいも悲しいも知りました。僕の中に閉じ込められていた気持ちに君は次々と鍵を差し込んでいきました。
そういうことがあって僕は僕になったのです。
でも、僕の中にいつまで経っても開かない気持ちがありました。君のことを思うと内側からどんどんと僕を叩くのに、その気持ちの扉は開きませんでした。
いつしか君は一人じゃなくなりました。僕と会うことはなくなりました。君は、君の扉を開けてくれる人を見つけました。
ずっと開かなかった気持ちはもう、扉を叩くことはありませんでした。
ねぇ、君が隠した鍵は、一体何の扉を開けるためのものだったのですか? もしかしてそれを開けてしまうと、僕は僕ではなくなってしまうはずだったのでしょうか。
あの小さな背中に聞いてみればよかった。
君が開けた幸福の扉の先に僕が行けないとしても、僕は君のことを忘れられないと思うのです。君のせいで僕の中身は殆ど空っぽなので。
11/25/2025, 4:02:15 AM