確かに自分が過ごしたはずだった遠い日の記憶は、日々をこなしていくごとに、うすれて、霞がかかったようにぼんやりと消えていく。あの日幼い私が感じていた鮮烈な喜びも、苦痛も、いつのまにかなくなって、でも私は毎日私として生きていく。きっと今感じている惨めさも葛藤も忘れて、これからも私は生きていくんだろう。
過去の自分のことなんて、自分でも理解できないのかもしれない
お題「遠い日の記憶」
「あんた子供の頃はもっと大人しかったのになぁ」
どうやったらこんな風に変わるんだよ、とぼやく女は私の古い幼なじみだ。さらさらな黒髪ロングヘアーとすらりとした体型が、セーラー服によく映えている。なかなか失礼なことを言いやがるそいつは、酷く鮮烈な青空と雄大な入道雲をバックに、フェンスにもたれ掛かりなからこちらを見下してくる。
「なんだよ失礼な」
私たちは今学校の屋上にいる。開放はされていないが無理やりこじ開けた。
「いやだってさぁ、あんた昔はもっとこう、お淑やかーなお嬢様、って感じだったからさあ。そんなやつが人巻き込んで授業サボるようになるとは思わないじゃん。」
「たまにはいいじゃん。そっちだって乗り気だったくせして。」
睨みながら見上げる
「悪いとは言ってないし。でも今の方がずっとあんたらしいよ」
笑いながら私を見るあんたは知らなかろう。あの頃の私がどれだけあんたに救われていたか、どれだけあんたといるのが楽しかったか。まあ、そんなことは私だけが知ってればいいんだけどね。
太陽を被って眩しいあんたを見ながら、でっしょ〜??
とおどけて見せた。
お題「子供の頃は」
がたんと音を立てて床が揺れる。倒れそうになり吊り革を掴む手に力を込める。周りには音楽を聴く人、勉強をする人、眠る人、それぞれ自由だ。これが日常。普段通りの生活。恐ろしいほど普段通りだ。私の感情をこれでもかと揺らがせ、これまでの人生一の衝撃を受けたあの出来事など無かったかのようだ。そう思った瞬間、私の日常は日常ではなくなった
お題「日常」
周りの景色がスローモーションのようにゆっくり移ろっていく。感じるのはふわふわとした浮遊感と髪や服をなびかせる風。ふと遠くに見えた私の高校、教室の窓の中に、私と1人の女の姿が見えた気がした。すぐ消えた。大丈夫、もうなにもかも無くなる。酷い安心感と少しの恐怖を感じながら目を閉じた。全て消えた。
お題「落下」
未来永劫逃げ続けよう!
楽しければいいじゃないか!