robi robi

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2/15/2024, 11:54:08 PM

 恋愛や結婚について、周りの大人たちが煽ってくるとは思います。とても面倒です。
 安心してね。ちゃんと結婚してるし、子どももいるから。
 あと、仕事も続けられてます。あなたがやりたかったことを実現できてます。だから、周りの声に不安になったり、失望したりしないでください。

 大丈夫。何も変わらなくていい。
 あなたはあなたのままで美しいから。まっすぐ進んでいて。

 ……変わる必要ない。

 そうか、でも、もしそうだったのなら、そんなこと伝える必要もないか。そう思って私は、その手紙を過去宛郵便局のゴミ箱に捨てた。

 過去宛郵便局のゴミ箱にはたくさんの手紙が捨てられている。人々の思い直しによって、本局は赤字経営だ。

2/14/2024, 11:39:02 PM

「はい、あげる」
 君はぶっきらぼうに僕の机に置いた。
「いらないよ、チョコ苦手だもん」
 僕は答える。
「今もらっとかないと、いつかもらえなくなるよ」
「いいって」
 あの頃から、君は達観していたと、僕は思い出す。
「いいから!」
 君はそのまま足速に帰っていった。
 しばらくしてから、周りが囃し立てる中、僕は袋を開けた。中を見てから、教室を出て君を探す。昇降口まできたが見つからなかった。
 僕は形が揃ったその中から、少し乱れたものを袋から取り出した。口に入れたとたん、胸を熱くした。
 それは歯ごたえよく、口の中を粉っぽくした。あるはずのない、チョコの風味がほんのりした。

2/14/2024, 12:53:23 PM

 戦禍から抜け、車を走らせた。ここを離れろと先生は言った。その意味は戦いが起きるということ、だけなのだろうか?
 彼にとってそれはわからないことだった。だから使命を優先させた。
 ただ、これから先に危険が迫っていることも彼はわかっていた。だとしたら、考えることはただ一つ。
 彼は車を止める。後ろの二人に言った。
「このあたりで音がした。誰かいないか見てきてくれ」
「何の音だ?」
 助手席から親友が顔を出す。
 後部座席から妹、助手席から親友が降りて行く。

 その瞬間、彼は車を走らせる。
 いち早く反応した彼の妹は叫んだ。甲高い声は彼の脳天まで響く。
「にいさん! いかないで!」
 彼の親友は一呼吸遅れたが、俊敏に追いすがり柱を掴んだ。
「逃がさないぞ!」
 親友は彼の名前を呼んだ。彼は妹の名を呼んだ。
「妹を頼んだ」
「こんなんでお前と別れられるかよ! 俺が」

 物音は彼の出まかせだったが、後ろで物音がして、まさかあいつらが乗ってきたのかと振り返った。
 妹よりも小さな子が後部座席から顔を出した。
「ひとりなのか?」
「……」
「わかった」
 彼は仕方なく車を走らせることにした。
 妹の歌声や、親友の無駄口は聞こえないけど、心の中にある。

2/13/2024, 12:22:00 AM

 君に言いたいことがあった。でも直接的だとカッコ悪いな。どういう表現にしよう? 君の好きなもので例えるのはどうかな。
 それと、どのタイミングで言ったらいいんだろう? 君とさよならするとき、君が向こうを見たときに呼び止めよう。その方がドラマチックだよね。
 とか、そういうことを考えていたそのとき、
「好き」
 僕の無駄な悩みなんか預かり知らぬところで、一直線に、まっすぐその山を乗り越えてきた君はとても勇敢だ。

2/7/2024, 11:44:27 PM

 このトイレ以外何もない部屋に入れられてから、数ヶ月が経った。毎日何もすることがなく、死に近づいていくのはなんだか虚しい。
 とはいえ、何もものがないと、何もできない。暇にならざるを得ない。この部屋には紙と筆さえないのだ。私が何をしたと言うのだ。
 思いつきを紙に起こすことも叶わない。だから何も考えないで過ごすようになり、いよいよ生きていることさえ怪しく感じられてきた。
 そのとき、床に音がした。その方を見ると、小石が転がっていた。向いの牢を見ると、目をぎらつかせた人がこちらを見ていた。殺される日も近いらしい、と私は目を瞑った。
 おい、と怒号まで浴びせられる。
 なんですか、と私は答えた。
「か、け、!」
「……なんですか?」
「それで、、かけ!」
 私はその意図に気づいて、小石を持ち、壁に文字を削り始めた。
 思いつく限りの言葉を綴り始めた。
 物語は無の中でこそ作られる。

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