戦禍から抜け、車を走らせた。ここを離れろと先生は言った。その意味は戦いが起きるということ、だけなのだろうか?
彼にとってそれはわからないことだった。だから使命を優先させた。
ただ、これから先に危険が迫っていることも彼はわかっていた。だとしたら、考えることはただ一つ。
彼は車を止める。後ろの二人に言った。
「このあたりで音がした。誰かいないか見てきてくれ」
「何の音だ?」
助手席から親友が顔を出す。
後部座席から妹、助手席から親友が降りて行く。
その瞬間、彼は車を走らせる。
いち早く反応した彼の妹は叫んだ。甲高い声は彼の脳天まで響く。
「にいさん! いかないで!」
彼の親友は一呼吸遅れたが、俊敏に追いすがり柱を掴んだ。
「逃がさないぞ!」
親友は彼の名前を呼んだ。彼は妹の名を呼んだ。
「妹を頼んだ」
「こんなんでお前と別れられるかよ! 俺が」
物音は彼の出まかせだったが、後ろで物音がして、まさかあいつらが乗ってきたのかと振り返った。
妹よりも小さな子が後部座席から顔を出した。
「ひとりなのか?」
「……」
「わかった」
彼は仕方なく車を走らせることにした。
妹の歌声や、親友の無駄口は聞こえないけど、心の中にある。
2/14/2024, 12:53:23 PM