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9/6/2024, 4:05:26 PM

最後の演奏だった。おそらく人生で。
音楽が好きというだけで入ったこの部活も気付けば3年、環境が変わりまた3年。
6年間も走り切ってしまった。
“音楽が好き”の本質は、音楽を自分の表現に落とし込みたいという願望だということに気付けた。
それに気付いた時、自分の技術が表現を圧倒的に下回っていることにも気付いてしまった。
技術だけじゃない。周りにいる演奏者達は皆自分の音楽を持っている。
私にはなかった。あったのかもしれないけど、もう私には何も聴こえてこない。
スランプというには余りにも浅い経験値、楽しめなくなった音。
もう私の中に音楽のかけらは一片足りとも残っていなかった。
他の楽器の音に溶け込んで無くなる私の音。
掻き消されて聞こえないまま、金色を纏った部隊達が終わりの一音を掲げる。
ありがとう音楽、私のいなくなった舞台で音楽よ永遠なれ。

9/4/2024, 3:29:16 PM

例えばショッピングモールに置いてあるお洋服とか、新作のコスメとか。
そういう物が煌いて見えた時、恋の音が聞こえる。
世界が輝いて見えるとはよく言ったもので、全ての景色に君を投影してしまう。
貴方となら何をしても好きだと思えるなんて、陳腐な言葉でも煌いた視界がそれを証明している。
恋する瞳は美しい。

9/3/2024, 4:06:02 PM

母の作る卵焼きが好きだった。
中学生と高校生の6年間、母は5人家族全員にお弁当を持たせてくれた。
私が卵焼きを好きなことも知っていたから、母は欠かさず2つ卵焼きを入れてくれた。
朝早くに起きてお弁当と朝ご飯を作る母に、もちろん感謝していた。
大学生での初めての一人暮らし。
節約のためお弁当を作ろうと思い立ち、母のしていた様におかずと冷凍食品で埋めていく。
卵焼きの味付けは母に聞いていたのでその通りに。
上手く巻けなかった。結局その日はスクランブルエッグにして詰めた。
別に味は変わらないし、見た目が悪いわけでもない。
ただ練習して卵を巻けるようになった今でも、スクランブルエッグのほうが楽だと思う。
綺麗な卵焼き、母のささやかな愛情。

9/2/2024, 3:37:06 PM

心に効く栄養は多い方が良い。
学校と家だけの小さな世界から放り出された時、しみじみとそう感じた。
友達との団欒が私の心を軽くしてくれたし、無償の愛は私に自信をくれていた。
自身で荒んだ心を治療する術を私は持っていなかった。
だから有名人や漫画のヒロインなんかの影に自分を落とし込み、結構他人経由で自分を愛していた。
別に自分が嫌いなわけではない、ただ自動治癒の環境に浸かりすぎて自分に関心がなかっただけ。
そこまでの思考に辿り着いた時、初めて自分に興味が湧いた。
自分の好きな自分を探すこと。自分の心に愛する隙間をつくる事。
心に沢山の栄養を与えたら身体を暖める位の大きな炎になるだろうか。
まだ着火したての赤色は弱い。

9/1/2024, 3:37:53 PM

私の人生はその人1人の為にあった。
いつも優先するのは彼女のライブ配信とラジオ。
彼女の声を聞いて、側に存在を感じることが何よりの幸せだった。
彼女をこの目で見る為に社会人という仮面も被って。
私のその頑張りは、ランキングチャートに乗る彼女の名前に現れていた。
嬉しい。私は彼女というアイドルの一部なのだと感じられた。
だからネットのニュースを見た時思考が止まった。
フェイクニュースだと思って色んなニュースアカウントを見た。
彼女だけの人生を歩んできた私に1つだけの通知。
これだけ彼女に捧げてきた自分は、彼女と繋がっていると感じていた。
でも私と貴方との繋がりは、ただこのofficial accountの1つだけだったのだ。
一方的なお知らせと、妙に噛み合わない返信。
彼女は私の名前も顔も知らない。
私は彼女の本名も歌声も、人生をも知っているのに。
私は彼女のアイドルという人生に同乗しただけの、唯の一般人なのだ。
立派なのもすごいのも、血の滲むような努力をして掴み取った夢も彼女だけのもの。
私のものじゃない事に気付くなんて今更だ。
でも私には彼女しかなかったから、だからこのトークを開いたら私が終わってしまうと思った。絶望の色。
私はまだ、最後の通知に既読をつけることが出来ない。

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