君の名前を呼んだ日
君と初めて出会ったのは淡い水平線が輝く砂浜。
いつものように星を見ていたら、鳴き声がして。
振り向けば海の中に君がいて。
それから僕の日常が変わって。
毎日君を呼んだ。
君に名前をつけて。
でも、いつしか気づいた。
この子も、いずれ独り立ちしないといけない。
なら、僕のすべきことは…
最後に君の名前を呼んだ日。
僕は君にさよならをした。
君を呼べば、今でも急いで
泳いできてくれるのだろうか。
それとも、もう忘れてしまっただろうか。
君の黒い瞳とその中の光のような月夜に思いを馳せ。
それでも君の名前を呼ぶことはない。
…でも、忘れることはない。
きっと君の名前をまた呼ぶのは最期の日。
優しい雨音
昼下がり、暗い縁側。
しとしととふり止まぬ雨音。
雨の匂いは、好き。
なんだか心が座ったように落ち着くから。
…君を思い出さないからかも知れないけれど。
君はやけに晴れが似合う人だったから。
君が好きだったから、その分辛くて。
雨の匂いは、嫌い。
君に程遠い自分のようで。
屋根で遮られた雲。
雲で遮られた青空。
僕の心には雨。
優しい雨音は、止むことを知らず。
歌
君の歌。
君は歌なんて歌わないような人間だと
勝手に思っていたけれど。
コートに向き合う姿からは想像もつかないほど
透明で、優美で、繊細な音色。
その姿に見惚れてしまう。
ああ、君は僕じゃない人の前でも
そうしてしまうのだろうか。
僕だけの歌姫でいてほしいと思うのは我儘だろうか。
僕と君では不釣り合いだけれど、高望みしてしまう。
君じゃなきゃだめ。
ここまで堕ちてきてよ、僕だけの歌姫。
sunrise
sunrise。
それは日の出。
僕にとって世界で1番皮肉な言葉。
君がおはようを言うことのない世界で、
僕の日の出はいつくると言うのだろう?
sunrise。
それでも、またいつか。
君にとって世界が幸せに満ちたなら。
君はきっとおはようと笑ってくれる。
無機質な病室から、日の満ちる世界に飛び出して。
その日が来たなら、僕の日の出は。
すれ違う瞳
かつての親友、今の他人。
…私たちの関係を一言で表せば、
それが1番しっくり来るようだ。
君は覚えているのかな、
それとも忘れてしまったのかな。
朝日の中の神社も、青空の下のグラウンドも、
夕日が差す公園も、星が瞬く屋根の上も。
全部君との思い出。
全部全部、私の中には君との思い出が。
すれ違う交差点で。
君は私を素通りしてしまった。
気づかなかっただけか、忘れてしまったのか。
それは定かじゃない。
…でも、どこにいても君だと分かっていたあの頃。
君が僕を見つけて微笑んでくれた、
あの頃には戻れない。それだけが確かだ。
今日もまた、灰色の空。
瞳がすれ違う。だけ。