[夏の蝶]
色鮮やかな袖が揺れる。彼女の手には、僕が釣った金魚の入った袋と僕が彼女のために頑張って射的で取ったうさぎのぬいぐるみが揺れている。
「今日、付き合ってくれてありがと~!」
浴衣姿で笑う君になら何でもしてあげたくなってしまう。「全然っ、こちらこそありがとう」
視界の端でラムネが売っているのが見える。
彼女も僕の視線に気付いて後ろをみると
「わぁ!ラムネ飲みたい!買いに行こっ」と僕の手を引っ張っていく。「わっ、まって!」
走り出す。花火が後方で鳴っているのが聞こえる。
買ったラムネを飲みながら彼女は
「ねぇねぇ知ってた?ラムネとソーダって中身が一緒で蓋とかが違うから呼び方が違うんだって!」
「へー、そうなんだ、はじめて知った」
「もー、ちゃんときいてる?」「きいてるきいてる」呆れたように僕をみる彼女の横顔に見惚れていた。
[子供の世界]
子供の世界は狭い。まるで鳥かごみたいに閉じ込められてるの。大人には見えないように表面上は楽しそうで虐めや無視、なんてよくある話。
小説とか偉い人は、学校だけが全てじゃない。っていうけどそれは違う。それは許された人だけだ。
環境が許さない子は、孤独な世界を生きるしかないのに。
こんな綺麗事だけの世界いらない。
大人は嘘ばっかりだね。
自分の立場のが大事なんだ。
…これは私が小学生のときに考えてたこと。
自分も汚い世界に馴染むのが怖いなんて可笑しいかもしれないけどいつかはそれが普通になってしまうのだろうか。
まだ、少しだけこのまま、いたい。
グレーのままで。
[そっと枯れたい]
花が咲くまでは長くかかるけれど、枯れてしまうまでの時間が早いのはなぜか?
私はこう思う。
綺麗な姿のまま長い間地上に置いておけば愛でる意味がなくなるからではないだろうか?
美しく儚いものになぜか惹かれてしまうのが人なのだから。
でももしかしたら花はこう思ってるのかもしれない。誰に知られることもなくひっそりと枯れてしまいたい。と。
なんてね。
[教えて、あなたの声を]
私は自分の名前が嫌いだった。あなたが呼んでくれるまでは…。
雨が降っていた。傘を差さずに公園のベンチに座っている。「ねぇ、ここで何してるの?」「…」
フードを深く被りすぎて前が見えないけど、多分同年代もしくは年下の女の子だろう。無視したら帰っていくだろうと返事はしないことに決めた。
「あなたは家にいるのが嫌なの?」「っ…」
「私の家にくる?」「えっ…」知らない人間にそんなこと言って大丈夫なのか?危機管理がなってなくてどんな顔をした子か気になってフードをあげる。
目の前にふわふわロングの可愛い女の子が立っていた。よくみたら同じ制服に同じ学年のリボンを着けてる。「可愛い~!あっ、頬に怪我してるよ?家においでよ。一人暮らしだし、このままだと風邪引いちゃ「くしゅんっ!」「ほらっ早く行くよ!嫌だったらすぐ帰ったら良いし!」「やだっ、家に帰りたくない…」知り合ったばかりの人に何を言ってるんだろう。「ごめんなさ「わかった。私の家に住も?後のことはまた考えよ!その前にあなたの名前を教えてくれる?」この人に着いていって大丈夫か?不安になりながらも「私の名前は紗愛」「よろしくね、愛ちゃん!」
[狙う視線はキミだけに]
くだらない授業を受けてる。つまらない毎日。
薄い雲が流れる。空は透明だ。でも、君がいるから今年は授業をさぼれない。時々、寝てないか確認してくる君に手をひらりと振ると呆れたように首をふってまた前を向く。
ボーッとしてたからか先生と視線が合うと
「じゃあ鈴木ー、この問題を黒板に書けー」
ダルいな。と思いながらチョークを手にとって式と答えをサラサラと書いて「これで、いーですか?」
驚く先生にチョークを返して席に戻る。
この問題は解いたこともなく、習ってもいない内容だ。授業で不真面目だからって小馬鹿にしようとしたのバレてるっつーの。
「おぉ、鈴木。凄いな、正解だ」「どーも」
彼が解けるなんて。私が驚いて振り返ったときに
彼は悪戯が成功したときのような顔をした。
「っ!」その顔にドキッとしたなんて言えないから
彼がいつもするようにひらりと手を振ってみた。