[はやく、手をとって]
希望に溺れている。だんだん、体を包み込むように重く沈んでいく。光芒が差した水面から遠退いていく。そのまま目を閉じようとしたときに誰かに手を引っ張られた。目を開けると「…!!」
声にならずに口から小さな泡がコポコポと出るだけ。優しく微笑む彼の手を取る。
…!!目を開けると白い天井に白いベッド。大量の機械が自分の腕やら足についている。
そうか。思い出した。私と颯は散歩に出掛けていた。でも、事故にあったときに楓が庇ってそのまま帰らぬ人となってしまった。私は意識をそのまま失い植物状態になっていたのだろう。窓を見ると紅葉がひらひらとまっている。楓が私に手を振っているように見えた。段々、紅葉がぼやけて見える。
「楓、ごめんね。楓の分までしっかり生きるからっ」
「___一緒にいれなくてごめんな」
風に乗って楓の声が聞こえた気がした。
[街明かりが消える]
明るい街。キラキラと煜いているのを窓から見ている。皆、綺麗だね。とか言ってるのかな。
電気代凄そう。なんてあまりに可愛げのないことを考えている。
街が煜いているのに私はどこか醒めている。
何か人肌が恋しい。
こんなときは彼に電話する。
「もしもし、街明かりが消えたら家に来て」
「了解~、ほんといつも気まぐれだな」
「知ってるくせに」
[白猫]
暖かな日差しに寝そべる白猫を見つめる。
「白猫さん、何してるのー?」もちろん答えるわけもなく、もふもふとした毛に可愛らしい目で見つめてくる。
今日はもしかしたら良いことがあるかも。なんて。
「またね」
白猫の傍に三葉が生えていて似合っている。
明日も会えたら良いな。
[夢と現実は鏡]
鏡に映る私の顔は酷い。目はクマが酷くできて、泣き腫らして赤くなり、ご飯を抜いて青白い顔だ。
あと1歩。踏み出したらこの世界からおさらばできるのに。覚悟を決めてきたはずなのに。
怖い。生きたい。生きたくない。
心のなかがぐちゃぐちゃで気持ち悪い。
こんな家庭環境もいらない。子供を幸せに育てれない。したいこともさせられないなら産まないでほしかった。
音楽もいらない。私には音楽しかなかったけどもう手放しちゃおうか。こんな中途半端な能力もいらない。
IQが高いから何になるの?何も役に立たなかった。
毎日ただ魚のように決まった1日を過ごすだけ。水槽は狭い。だから出たくなる。
窓越しに焦る君が見える。でも、足を踏み出したところで目が覚めた。
また、今日も死ねなかったな。
これはもしかしたら私なりの…
[また明日は要らない]
「ねねカイ、これからバイバイじゃなくてまた明日って言って」
「なんで?」
「バイバイはね、もう会わないときとかに使うけどまた明日ねは明日会う約束だから!」
「へー、そうなんだ?じゃ、また明日な奏良」
「うん!また明日!」満面の笑みの奏良が頭に残っている。あの時、なんで違和感に気づけなかったんだろう。いつものように病室を訪れて帰り際奏良が
「今日も来てくれてありがと、海!バイバイ」
奏良は少し泣きそうな顔をしていた。
「奏良、また明日な」スクバを持って立ち上がろうとすると「ううん、海バイバイって言って」
「なんで?」「お願い」「んー、バイバイ?」
「うん!バイバイ」
彼は次の日以降会うことはなかった。俺は幼少期にしたあの約束をすぐに思い出すことができなかったことが今でも胸を刺す。