空を見上げて心に浮かんだこと
空が青いのはレイリー散乱って現象が起こってるからなんだって自慢気に誰かに言いてぇなー
夜あまりの暑さに目が覚めた。
寝る前につけていた扇風機は、律儀にタイマーで止まっている。
半端な時間寝たせいで頭がはっきりしない。
何とか重い身体を起こし扇風機のスイッチを入れた。
ブーンという音と共に涼しい風が吹きはじめる。
俺は再びベットに倒れ枕元のスマホに手を伸ばした。
8月3日 11時55分
ディスプレイに映る数字が、やけに俺の心をざわつかせる。
明日8月4日は俺にとって最悪の日。
大切な彼女が交通事故で亡くなった日だ。
毎年この日の前日になると、鬱々とした気持ちになってしまう。
いつか吹っ切れて何も感じなくなる日が来るんだろうか。
新しい彼女を作って、結婚して、子供が出来て。
とてもじゃないが今の俺には考えられない。
このままズルズル彼女のことを引き摺って、一生独り身で生きていく恐怖より、彼女のことを忘れることの方が俺にはよっぽど恐ろしい事に感じた。
気付けば時刻は12時を周り日付が変わっていた。
俺はスマホを置き、瞼を閉じる。
せめて夢の中で彼女に会いに行こう。
あなたに最後に会った日を更新していくために。
夏祭り当日、多くの屋台や人々の波を横目に僕はスマホで時間を確認する。
約束の時間から10分ほど経っているが、この人混みなので遅れるのは仕方がないことだろう。
それにもしかしたら僕を見つけられていないだけで、もう近くに来ているかもしれない。
そう思い顔をあげてサッと辺りを見渡す。
すると直ぐに鮮やかな赤いハイビスカスの髪飾りが目についた。
なんだやっぱり近くに居たのか。
「彩佳!こっち」
そう声をかけると、クルッと女性が振り向き、こちらに笑顔で手を振った。
「あっ!やっと見つけたー」
そう言って駆け寄る彼女に僕は思わず見とれていた。
浴衣を着てくることは聞いていたけど、ここまでの威力とは。
「こんなに人いっぱいの中よく私を見つけられたねー」
まだ動揺中の僕だったが、普段通り接してくる彼女に悟られまいと精一杯冷静に返す
「そりゃ分かるでしょ頭にそんなに分かりやすい目印があれば」
彼女が普段から大好きだと言っているハイビスカス。
僕は花には全く興味がないけれど、ハイビスカスを見ると自然と目が惹かれて、彼女の顔が浮かぶようになっていた。
「あっこれねー綺麗でしょ?今日の為に買っておいたの」
彼女が好きなハイビスカス
花言葉は繊細な美、新しい恋
「じゃあ行くか!そろそろ花火も始まるし」
僕はそう言って彼女の手をとった。
彼女は少し驚いた顔をした後すぐにいつもの笑顔に戻り、手を強く握り返してきた。
赤いハイビスカスの花言葉は勇敢。
僕は少しだけ勇気を出して歩き出した。
僕は身体に風を受けながらただただ落ちていく。
羽を持たない人間に抗う術はない。
落ちる___落ちる___どこまでも。
どのくらいたったのだろう、まだ僕は落下している。
ふとおかしなことに気づく、目の前が真っ暗で何も見えない。
それどころか自分が目を開けているのか閉じているのかさえ分からない。
僕が今分かるのは身体に強く纏わりつく風の感覚と、自分が落下しているという感覚だけだ。
どこまで落ちていくのだろう。
どこか他人事のようにそんなことを考えていると、ふと身体に纏わりついていた風が消えた。
ついに僕はもう何も感じられなくなった。
目の前は真っ黒、一切光を通さない暗黒。
音も聞こえない、手を動かそうにも動かし方も分からない。
思考が止まっていく。目ってなんだ?音?動かす?手?言葉?さは、らなた、らはに......僕
僕はまだ落下している。