遠距離恋愛といえども地球と月では、空間だけでなく時間でも隔てられている。個人的な通信では行って来いで約3秒、その3秒で誤字脱字を見つけてしまうのが小さなストレスだったが、最近はAIが勝手に補正しちゃうのでまあ、ありがたい。
また、同じ空を見ていても地球ドームの天井と、月ドームの天井は物理的には別のもの。遠くの空へ気持ちを込めても、それは恋人と繋がった空ではなく、お互いの天井スクリーンでしかない。バーチャルにつながっているとはいえ、それはふたりの気持ち次第。設定次第で違う空にもなってしまう。
それでも同じ空を見ている、同じ星を見ていると思いたがるのが遠距離恋愛。
言葉にできない。
今、時間がないのに思考が止まらない。
ジャーナリストとして、どうしてもこれを誰かに伝えたい。
だが、どう書いても違う。
空から無数の隕石が降り続く。
落下したところから火を吹き、何か蠢くものが立ち上がる。
それは光線を発しながら動き回る。
逃げ惑う人があればその光線は一斉に照射され、人は煙に帰してしまう。
これが言葉か?
隕石、と書けばただの天体現象になる。
蠢くもの、と書けば生物になってしまう。
光線、と書けば兵器になる。
どれも違う。だが、他に言いようがない。
見たものそのままに過ぎない。
人間とは接点がない……。
見つかったらやられる。
今はまだ遠い。
それがだんだんこちらに近づいてくる。
あの光線がこちらに向かったら最後だ。
何でこちらを見分けているのか?
音か、光か、動きか。
そもそも人間の五感と同じものなのか。
今更言葉に残しても誰も読めないだろう。
周りの人間が次々と煙のように消えていく…
次は俺かもしれない……
「パパ、ハルランマンってなーに?」
「ぼうや、どっからそんな難しい言葉聞いてきたんだい?」
「隣ドームのおばさん」
「おおそうか、あっちはそういうスケジュールかな」
「なーに?」
「中学で習うと思うけどな、パパが知ってることを教えてあげよう。昔な、1年は4つの季節に分かれていたんだ」
「きせつって?」
「季節って、そうだね、なんだろうね、パパもよく覚えていないんだ。でも4つのことを『季節』って言ったらしいよ、確か」
「じゃあ、4才のボクは季節なんだね?」
「う、うん。そうだね。でね、そのうちのひとつが『春爛漫』。その時はみんなピンク色の服を着て、ピンクの折り紙を撒くんだよ。それがね、風に舞って綺麗なんだそうだ」
「えー、ピンク? そんな暑そうな色やだなぁ」
「その日は気温が今ほど暑くないんだ。だいたい20°くらい」
「えー、寒くないの?」
「それが20°といっても寒くないんだ、ちょうどよかったらしいよ。その日はね、ドームのエネルギーをたくさん使って20°にしたらしいんだ。最初の春爛漫は3ヶ月くらいあったらしいけど、エネルギーがもったいないということで、だんだん短く、結局1日だけになってしまったんだ。そして春爛漫というお祭りの日になったんだ。ぼうやは去年のこと忘れちゃったかな?」
「覚えてないなぁ……」
「そうか。去年はエネルギー不足で気温は変えなかったし、バーチャル配信だけだったんだ。ぼうやはまだ小さくて入れなかったはずだな」
「今年はハルランマンに行ける?」
「隣ドームが終わったから、そろそろこっちなんだけど、こっちのドームはエネルギー少ないからなぁ」
「ハルランマン、来るといいなぁ」
誰よりも、ずっと、あなたを愛していました。
それは本当です。今こうして目の前にいるのもあなたの前で動けないのも、私の愛がそうさせたのです。それを信じています。
先ほどあなたの手が少し私に触れました。
私の身体に文字通り電気が走り、今はその感触だけを反復しています。それしか考えられません。
私の望んだ形ではなかったのかもしれません。
それでも、あなたの形で、私たちは結ばれました。
あなたが近づいてきました。
手を伸ばし、私の首に……、ああ、あなたの手が再び私を震わせます。
く、苦しい。
愛とはこんなにも苦しいものなのでしょうか? 私はあなたの愛を受け止め、私の願いが成就したと信じています……。
誰よりも、ずっと、あなたを愛しています、今でも。
物心がつくというか、気づいたら人間として存在していました。不思議ですよね。小さい頃を思い出そう思い出そうとしても何か靄がかかっている。
太宰治や三島由紀夫は生まれた時のことを覚えていると書いていたし、夢野久作は生まれる前のことを小説にした。私にはそれほどの記憶力はない……。
でも、私の場合は物心ついた時から守護霊様がいました。
守護霊様はいろいろ助言してくれたり、ちょっとヒントをくれたりと大変ありがたい存在でした。誰にでも守護霊様がいるとは限らないようで、これは秘密にしなければならないと感じていました。
ところが、ある日うっかり家族にその話をしてしまったのです。
それは危険だ、ということになり、善は急げと除霊を行うことになってしまいました。わたしにとっては大切な存在だといくら言っても両親は聞き入れてくれません。それがこんなことになるとは……。
郊外の神社に連れて行かれ、四人の神主さんが私を取り囲み、儀式が始まりました。そして、何やら難しい言葉をリズミカルに操り発し始め、私を囲みぐるぐる回り出しました。
するとどうでしょう、私が肉体から離れていくのです。
あっ、あっ、あっ……、俺じゃない俺じゃない。
守護霊様はどこか不思議そうにしています。
これからも、ずっと二人コンビで生きていくはずだったのです。それが、あろうことか私の方が肉体から追い出されてしまったのです。
な、なんで?
たっ、たっ、助けてぇ。これは声になりません。
今や肉体に収まっている守護霊様に一生懸命伝えます。
自分の身体を見下ろすと、守護霊様は私の顔でニヤリとしました。
これからも、ずっと……。