太田エイ

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3/28/2026, 12:34:08 AM

初老の男はある若い女の子に恋をしている。
妻に先立たれ、静かな生活を送っていたが、ある日、彼女と出会ったのだ。

老いらくの恋……。
何やら文学的な響きを持つ言葉がある。
しかしこれは老人の身勝手でしかない。
若い側からしたら迷惑この上もない。

いや本当なんだ恋をしているのだ。
「このMy Heartの高鳴りを感じてくれ!」

それはただの不整脈、病院行きましょーね!

3/26/2026, 9:25:29 PM

彼女はいつも欲しがり。
「オレンジジュース持ってきて〜」
冷蔵庫から出してコップに注ぎ、はいと渡す。
「ブルーベリージャム買ってきて〜」
無いものに限ってわざわざ頼んでくる。
「フルーツ牛乳買ってきて〜」
ないものねだり。
「ドラゴンフルーツ買ってきて〜」
ちょっと難しいこともある
「どこそこのバターサンド買ってきて〜」
甘いものばかりだ。

頼られるのが、少し嬉しかった。
それがだんだんエスカレートしてきた。
一度などは、電車で片道一時間かかった。
恋人同士なら一緒に行くものじゃないのか……。
次はなんだ?

「新しい彼氏連れてきて〜」

3/25/2026, 4:41:00 PM

自分の人生がどこからどこまでかを時間で表すことはできない。ただその中で一番失敗は、彼女の人生を見守ると願ったことだ。
好きじゃないのに。
そもそも彼女は誰なのだろう? 

私の運転している車が歩道に乗り上げ、彼女を轢いた。何が起きたかよくわからず、ただ自分が死ぬこと、誰かを巻き込んだことだけは理解した。
その瞬間、願ったのだ。生きてて欲しい、と。

幸い彼女は命に別状なく、大きな怪我もなかった。
そして、私は彼女の人生を見届けることになった。
ただし、何もできない。ただ見守るだけだ。
最初はそれでよかった。
私の目の前で彼女は彼女の人生を生きた。
いいことも悪いことも、同じように乗り越えていった。
むしろ、長生きした。
生きてて欲しいと願った私の気持ちは、その後変化した。

早く死なねーかな。

3/25/2026, 3:12:12 AM

旅行の日に雨が降ってそれは雨男がいるからだ、誰それが雨男だ、いや雨女だみたいな会話は日常的なことで、なんの不思議もない。よくあることだ。ただ雨男にもランクがあって酷いのになるとその人のまわりだけ雨が降り続けるという超A級雨男もわずかに存在している。オカルトや都市伝説系でもあまり紹介されないのであまり知られていない。なぜ私がそれを知っているかというと、私がそうだからだ。

自分が雨男と気づくのは意外と遅い。というのもそれが当たり前と思っているからで、赤ちゃんの頃から自然とコントロールしてしまうからだ。おしっこは我慢できずにしてしまうが、雨だけは生まれてすぐに止められる。ただ気が緩むと雨が降るので、まあ、コントロールできていたかはよくわからない。母に言わせると、なんだか身体が濡れていることがよくあり、風邪ひかないようにすぐに拭いて着替えさせていたということだ。

青年の頃になると、雨の強さ、範囲をコントロールできるようになる。半径5メートルくらいに雨を降らせて、女の子を傘に入れてあげるという邪な優しさに使ったりもできる。これは雨男の特権であるが、他にいいことはあまりない。
その雨を我慢する緊張感は特に梅雨時に解放される。雨が降ってても目立たないいい季節だ。
また、天気予報の「ところにより雨」は、だいたい超A級雨男の仕業である。

その後社会に出て、自分の能力を使う者、隠す者様々な生き方がある。私は能力を生かすことを選び農地をまわる仕事に就いた。仕事と並行して必要な雨をサポートしていたのだ。人々に役立っている気がして満足した。

しかし、晩年は雨を我慢する能力が薄れてしまう。
それに気づくと、死を自覚して自然と山に登りたくなる。そして、ある程度登り、落ち着く場所を見つけてそこに留まる。もうそれは雨男の成れの果てであって、ほぼ人間ではない。
雨は降り続け、山に染み、また湧き出して名水になることもあるという。

今、私もこの場にじっとしている。
自分の降らせている雨が名水となることを願いながら。
結果はたぶんわからない。

3/23/2026, 8:57:57 PM

先生は静かに話し始めた。
「みんな、卒業おめでとう。六年間よく頑張った」
そして一人一人に声をかけていき、最後に彼の名前を呼んだ。
「太田……」
クラス中の視線が一つの席に集まった。
その席には誰もいない。
この時ばかりは浮かれていたクラス全員が静かになった。
「君も今日で卒業だ。おめでとう。六年間、クラスのみんなを見守ってくれたと思う。その後大きな事故もなく全員が卒業できた。先生は君のおかげだと思いたい。本来なら君も……。もちろん、悔しい思いは残っているだろう。でも、今日だけは祝って欲しい」

カタッ。
誰もいないはずの机が静かに震えた。

ガタガタッ。

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