三大欲望というのは、食欲、性欲、睡眠欲と言われているが、さて、四番目の欲望は何だろう? 仏教では「五欲」(食欲・睡眠欲・性欲+財欲・名誉欲)という考えがあったり、生理学的には食欲、睡眠欲、排泄欲とする考えもあるそうだ。四番目には財欲や名誉欲を繰り上げてもいいし、排泄欲を入れてもいい。昨今でいえばいいね欲は確かにあるな。
といったことを湯船でぼーっと考えていたけど、ここはやはり「入欲(浴)」かなと気づいた。
ユウレカ!
通勤電車でウトウトしていたら、ハッと気づくと降りる駅で、電車のドアが閉まる瞬間だった。ああ、降りる駅が去って行く。気づくのはなぜいつも閉まる瞬間なのだろう。まあいいや、休んじゃおうと思った。今日は会議もないし、やりかけの作業には余裕がある。これは休みなさいとの神の啓示だ。スマホからメッセージを送り会社に対して手続き終了。このまま電車に乗って行けるとこまで行ってみよう、遠くの街へ……。
そのまま、また眠ってしまった。そして、今度はドアが開く瞬間に気づいた。よし、降りよう。定期券の先の駅だ。ただし、それはたった二駅先の駅だった……。
休みまでとったのにここまでかよ!
思っていたより遠くはなかった。
会社にメッセージを送る。
「用事が済んだので午後から出社します」
しばらく画面を眺めてから、送信した。
これが現実逃避飴か、なになに、舐めるとあまりの美味さに現実逃避できるだってさ、どれどれ。
袋の中に入った緑色の飴をつまむと少し柔らかい感じで何か練って練って作ったような飴らしい。口に入れると純粋な甘みと塩気が口の中に広がり、初めての味がした。甘さの中にほのかなフレーバーを感じるがそれが何味かはよくわからない。そして口元から優しい香りが全身に広がる……。五感のすべてが飴に集中し、何も考えられなくなった。
これは美味い、確かに現実逃避飴だ。
しかし、効果は1分にも満たなかった。
君は今
今わの君ね
さようなら
何も考えずに旅に出た。
昔どこかで読んだ鳥居が108並ぶ東北L県の神社を目指す。その108の鳥居をくぐると澄み渡った空に出るという。そんな話が伝わっている。映えスポットらしいが、あまりにも地味で知る人は少ないという。
電車とバスを乗り継ぎ、物憂げな空の下に神社はあった。裏手の目立たないところに立て札があり、そこから進むと最初の鳥居がある。鳥居はまばらに2〜4メートルくらいの間隔で続き、登り降りがあるので20分は歩いた。数えながら進むが今数えた鳥居がくぐった鳥居か、これからくぐる鳥居かわからなくなった。空気も変わってきたようで、湿気を帯びている。そして最後とおぼしき鳥居は少し離れた高台にあり、そこに登ると目の前は絶景の海。眼下の岩に波飛沫があたり見上げるとどこまでも続く海原。
物憂げな気持ちは確かに消えていた。
何か自分の中にわだかまっていた諸々の緊張がほどけた気がした。
引き返す時に再び鳥居をくぐるが、この気持ちが消えないようにゆっくり歩いてみよう。