「泣かないよ」、「泣かないよ」と言いつつ涙があふれるような泣き虫で、周りの大人がニコニコしながらからかってくる子供時代だった。そのせいか、泣くことをコントロールできる大人になりました。自然に泣くことは無いのに、「泣かないよ」と唱えるとすぐに泣けてくるのだ。
大人になると付き合いのない方の仏事に出ることも多い。
お通夜お葬式では、故人との関係に合わせて小さく「泣かないよ」から、大きめの「泣かないよ」と唱える。どうも声の大きさで涙の量をコントロールできるようなのだ。まあ、大の大人が大声で泣くのも変だから、小声がいちばん多い。
ところが、この能力を使っていると、この涙が本物か能力かわからなくなってくる。まあ、周りにはわからないので問題はないのだが。
祖母が死んだ。大好きだった。
「相当な高齢で大往生、むしろ祝ってもよいくらいだ」、「ちょっと前まで元気でいらしたのに」、「しばらく会ってなかったなあ」、「子どもの頃優しかったな」‥…。様々な想いが聞こえてくる。
この時ばかりは「泣かないよ」と言う前に涙が出た。でも念のため、小さく「泣かないよ」と言ってみた。
涙がとめどなく溢れてきた。
それ以来「泣かないよ」は効かなくなった。
宇宙人はいないことがわかったし、幽霊も存在しない。死は科学的に定義され何の疑問もなくなった。発見されていない生物はいないし、もちろんお化けもいない。もう何も怖くない。暗がりにはあっという間に灯りが点る。そして怖がりはいなくなった。恐怖は笑いに塗りつぶされてしまった……。
だが、人は怖がりたい生き物である。
そのため、人々は怖いものを探し始め、新たな恐怖を作り出そうともがいていた。それさえ滑稽だった。
もちろん恐怖は残っている。皆が知っているが決して口に出さない恐怖を……。
それは人間である。
だから人々は、UFOや幽霊を作り出したのだ。
本当の恐怖から目を逸らすために。
こないだの合コンでさ、最初から宇宙ステーション勤務って言ったら急に態度が変わっちゃってね、存在が無くなっちゃいましたよ。一昔前なら宇宙勤務ってだけでモテモテだったらしいけどね。結局地球のお金持ちのために尽くす仕事ってことが知られてね、半年単位で留守になるし、そりゃモテないよね。宇宙勤務あるあるですよ。
でもね、スターダスト社勤務だって言ったらちょっとは興味持ってくれました。まあ、有名で派手な仕事ですからね。そう、宇宙から人工流れ星を撒くんですよ。指定の時間、場所、方向に合わせて、天気も考慮しながら質量を計算して発射する。まあ、計算はAIがやってくれますがね。大概1個か2個、お金持ち相手とはいえ費用はバカになりません。結婚式とかお祝い事ですね。でね、先日、超大金持ちが流星雨を降らせたいってんでもう大量にやりましたよ。全社挙げてステーション5基全部集めて一斉にバーっと。
そんな話をしたら、たまたまそれを見た娘がいてさ、ちょっと仲良くなったんですよ。流れ星お願いできる?っていうから社割で何とかなるかな、結婚式にやろうとなって盛り上がりました。その結婚相手が俺なのか、他の誰かはまだ分からないけど、次のデートの約束できましたよ。ひとつの流れ星でも今の俺には星が溢れて見えます。やったあ!
彼女の安らかな瞳を見て、今日の仕事の疲れが全て消えた。その瞳は俺の心を溶かし、安らぎを与えてくれた。
こんなにいい一日の終わり方は久しぶりだ。
そっと手を当てて瞼を閉じる。彼女は恐怖に怯えることなく消えていったのだ。苦しみや痛みを感じず、自分が死ぬことも気づかなかっただろう。完璧だ。
これが殺し屋としての俺の矜持である。
人生に一度は訪れると言われているモテキですが、自分ではそれがいつかはわからない、というか、モテキが過ぎてから気づくわけで……。同じモテない親友も「俺のモテキは赤ちゃんの頃だったなあ」と悲しい回想を始めています。
かくいう私は小学6年生だったんじゃないかと思います。転校する女の子からこっそり呼び出されて「好きです」と言われたんだけど、まだまだピンと来ない男子である俺は「ありがとう」とかなんとか応えたっけ。もちろん嬉しかったけど、目の前の出来事が背伸びして見てるドラマのような感じでそのまま……。
彼女は最後の日にプレゼントをくれて転校して行きました。今思えばそれが瞬発的な俺のモテキで、そのあとはさっぱりモテない。その彼女は今いずこ?
その時にもらった妖精のような人形は、今でも机の横に置いてあります。ずっと隣で見守ってくれているような気がしている。片づけたと思ってもいつのまにか机の上にあったり、何回か引っ越しをしましたが気がつくと大事に運び新しい部屋に飾っていたり……。
そしてだんだんとわかってきました。
この人形は彼女だ。彼女の何かが乗り移って俺を見守っているのだ。いや、監視しているのだ。だからモテキがやってこない。そう考え始めてから、真剣に捨てようとしますがなかなか捨てられないし、この人形さえなければ俺のモテキが再びやってくるはず、なんとかしなくては……。
モテないまま月日が経ち、それなりの大人になった頃、同窓会が開かれた。そこに、あの彼女も来るという。
人形を見せようと持っていくと、彼女は人形を手に取って「ああ、それまだ持ってたんだ」と笑う。
「ずいぶん役に立ったわ」
そう言ってゴミ箱にぽいと捨てたのです。
長年、ずっと隣にあった人形とついにおさらばする時が来ようとは。そして、また瞬発的なモテキがやってきたのでした。
今度は逃れられない気がする……。