一輪の花
それは偶然、そして必然。
秋とは名ばかりの暑い季節に、僕は彼女を見つけた。
5年前、塾の冬期講習で同じクラスだった僕たち。
お互いに恥ずかしがり屋で話すことは出来なかったけれど、たまに目が合うだけで僕の心は踊った。
若かりし日の淡い恋に、今なら形を与えられるとしたら。
僕は彼女に花を贈ることにした。
花なんてガラじゃないけれど、僕たちにぴったりの花言葉を見つけたんだ。
「再会」
を意味するこの美しい赤色の花に、彼女はどんな反応を見せてくれるだろう?
僕は彼女が現れるのを待った。
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バイトの帰り道、待ち伏せしたかのように突然現れた見知らぬ男に、私の心臓は竦み上がった。
後ずさりながらバッグの中のスマホを探るけれど、手が震えて上手く掴めない。
「久しぶり。あのこれ、僕の気持ちです」
そう言って男が手渡そうとしてきたのは、一輪の花。
それを見て私は更なる恐怖に襲われる。
赤い線で描いたかのような独特のフォルムを持つその花は──
『これは彼岸花。死人花、幽霊花、地獄花とも呼ぶんだよ。毒のある不吉な花だからね』
子どもの頃におばあちゃんから教わったことがある。
それを私に渡す意味は?私を……殺してやるという脅し?
男が少しずつ近付いてくる。
私は悲鳴にならない声をあげて駆け出した。後ろを振り返る余裕はない。
もつれる足を奮い立たせて、ようやく車通りのある場所へ出たと思ったその時だった。
けたたましいクラクションと眩しい光。衝撃と共に身体が宙に舞って──
ぐしゃりと何かが壊れる音。
意識が途切れるその間際。
視界の端に、不吉な赤い花が見えたような気がした。
「高度な科学は魔法と区別がつかない」
私の好きな言葉です。
高度という程でもないけれど、仕事で使うエクセルに便利な関数や書式を仕込むのが大好きで。
ひとつのセルに数字を入れるだけで日付が変わり、曜日も出て、土日祝は赤くなり、それに対応した担当者の欄に◯が入って、別シートの一覧にも反映される。
これってひとつひとつ日付を変えて祝日を探して色を塗って担当者欄に◯をコピペして……ってやるのに比べたら、まるで魔法みたいだなあと思うのです。
今私たちが光る板に触れるだけで文章が現れ、それを遠く離れた沢山の人が瞬時に共有して反応を貰えたりできるこのアプリも、やはりどう考えても魔法ですね。
君と見た虹
赤色の色付きリップ
オレンジ色のチーク
黄色がかったコンシーラー
緑色のアイシャドウ
青色のネイル
紫色のマスカラ
初めてコスメを買った十代の頃。
田舎のドラッグストアで、お小遣いとにらめっこしながら、ドキドキしながら買った。
今みたいに参考になる動画なんてない。
パーソナルカラー診断なんてものもない。
鏡の中に映る君と、1から試すしかなかった。
下手くそで上手く使えなかったり、
全然似合わない色で沢山失敗もした。
それでも小さくてごちゃごちゃしたコスメ達は存在自体が可愛らしく、私を勇気付けた。
君と見た虹、それは七色のコスメ。
夜空を駆ける
「さあ願いを言え」と神龍は言った。
ようやくこの時が来た。
7つの星の付いたボールを集めるのは本当に大変だったから。
これで願いを叶えられるわ。
空を翔びたいの
重力から解放されて
ふわりと宙を舞い
月明かりを頼りに
星明かりを道標にして
美しく自由に夜空を駆ける
そんなふうになりたいの
さあ、叶えてちょうだい!
気持ちが昂るままに叫ぶ。
そんな私に、神龍は訝しげに言った。
「お前はもう翔んでいるが……?」
「えっっっ」
なんてことなの。
言われて初めて気付いた。
7つのボールを集めるために、私は沢山の修行を積んだ。
その過程で舞空術を習得していたものだから。
今、私は神龍の目線と同じ高さに浮いている。私はもう翔んでいる。
「……」
「……」
気まずい沈黙が流れる。
数分後、私は次に思いついた願い事をなんとか叶えてもらったわけだが。
「まったく、こんなことは初めてだ」
そうぼやく神龍は、呆れた様子で面倒くさそうに、しかし神々しく去って行った。
ひそかな想いを
ずっと自分の中に囲ってきたの
誰にも見せなくてもいい
私だけが知っていればいい
そうしたら頭の中でどんどんと
何倍にもなって膨らんで
気付いたらpixivに二万字の二次創作を書き綴ってたの