一輪の花
それは偶然、そして必然。
秋とは名ばかりの暑い季節に、僕は彼女を見つけた。
5年前、塾の冬期講習で同じクラスだった僕たち。
お互いに恥ずかしがり屋で話すことは出来なかったけれど、たまに目が合うだけで僕の心は踊った。
若かりし日の淡い恋に、今なら形を与えられるとしたら。
僕は彼女に花を贈ることにした。
花なんてガラじゃないけれど、僕たちにぴったりの花言葉を見つけたんだ。
「再会」
を意味するこの美しい赤色の花に、彼女はどんな反応を見せてくれるだろう?
僕は彼女が現れるのを待った。
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バイトの帰り道、待ち伏せしたかのように突然現れた見知らぬ男に、私の心臓は竦み上がった。
後ずさりながらバッグの中のスマホを探るけれど、手が震えて上手く掴めない。
「久しぶり。あのこれ、僕の気持ちです」
そう言って男が手渡そうとしてきたのは、一輪の花。
それを見て私は更なる恐怖に襲われる。
赤い線で描いたかのような独特のフォルムを持つその花は──
『これは彼岸花。死人花、幽霊花、地獄花とも呼ぶんだよ。毒のある不吉な花だからね』
子どもの頃におばあちゃんから教わったことがある。
それを私に渡す意味は?私を……殺してやるという脅し?
男が少しずつ近付いてくる。
私は悲鳴にならない声をあげて駆け出した。後ろを振り返る余裕はない。
もつれる足を奮い立たせて、ようやく車通りのある場所へ出たと思ったその時だった。
けたたましいクラクションと眩しい光。衝撃と共に身体が宙に舞って──
ぐしゃりと何かが壊れる音。
意識が途切れるその間際。
視界の端に、不吉な赤い花が見えたような気がした。
2/24/2025, 11:23:13 AM