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11/8/2021, 10:27:03 AM

今日も君はなぜか悲しんでいる。俺が君のいる部屋に入ると、君は焦ったようにさっと何かを背に隠した。俺の顔を見れば、下手くそに口角を上げて、歪んだ笑みを浮かべる。
「おかえりなさい」
取り繕ったようなかわいらしい笑顔。
必死な無力さ、かわいいね。君が隠しているスマホ、圏外なんだって言ったよね?馬鹿っぽくて、浅はかで、ほんとうにかわいいね。
「ね、俺が居なくて暇だったのかな?ケータイで何してたの?俺に見してよ」
彼女はごくりと唾を飲む。彼女の首を伝った汗を俺は見逃していない。
「も、もってないよ、なんで?」
「嘘はやめなよ」
見せてもらえなくても、俺のスマホでなんでも確認できちゃうんだって、教えたことあったっけ?そっか、教えていたら、懲りずに見つけだしたスマホで誰かに電話かけようなんて試みるはずないもんね!
「もう捨てちゃおっか。いらないでしょそれ」
後ろ手に隠されたそれを無理やり奪い取って、近くに飾ってあった花瓶で思いきり叩き割った。手にじんわり滲む血もまったく気にならなかった。
怒りやら恐怖やらが混ざったように、怯えた顔つきの彼女に、不安をすべて取り去って、清々しい顔つきの俺。刹那彼女は泣き叫んだ。呂律すら回っていない、駄々っ子のような悲鳴に俺はひどく興奮した。
「こらこら、そんな声出したって俺以外には聞こえないよ〜……意味がないことなんだって、いつになったらわかるのかな」
何度も根気強く「無意味」を教え込む。躾も大変なんだなって、この頃感じました。

「意味がないこと」

11/7/2021, 1:54:58 PM

相反する。夢と現実、嘘と真、太陽と月、あなたとわたし。
あなたのうしろにいるばかりの役立たずなわたし。あなたが太陽だったのなら。わたしがあなたに輝きを受けただけの月だったなんて、信じたくもない。
でもあなたのあたたかな光に、やっぱりいつも安心してしまうのだ。

併存する。あの子とその子、晴れと雨、太陽と月、きみとおれ。
きみの前に立つ時はいつだって誇らしくて、少しの優越感に駆られているおれ。
おれが太陽だとしたら。月であるきみに光を与えるのはおれだけでいい。おれの後ろで笑うきみでいい。いつまでもおれのうしろで、優しげに笑ってくれ。

「あなたとわたし」

11/6/2021, 1:21:55 PM

雨に打たれてびしょ濡れのまま玄関に入るなり、彼女は駆け寄ってきてくれた。心配そうな面持ちでオレの髪や顔を拭いてくれる彼女に、心底ほっとした。
こんなオレを見捨てないでいてくれる。毎日のように向けられる慈悲の笑みは、まるで柔らかな雨のよう。
こんなダメになっちまったオレを愛してくれてありがとう。オレが泥まみれになる度に、微笑んで抱きしめてくれてありがとう。
おまえがオレに見向きもしてくれなくなるまでは死なないよ。おまえがオレに呆れるまでは、優しい雨を降らしてね。

「柔らかい雨」

11/5/2021, 12:43:51 PM

あなたが私のすべてだった。あなたに倣って、あなたと笑って、あなたを愛して。
一筋の光。私の世界を照らす存在。神格化と狂信。あなただけいればそれで良かった。なのに。
花瓶の置かれたあなたの席。
もう居ないあなたを追いかけるつもりでひとり、私は屋上に佇んでいた。
自分の気持ちを無視して、あなたを忘れてしまうつもりでした。どうしても無理でした。頭の片隅でくしゃりと笑うあなたに知らないふりをすると、あなたは酷く悲しそうな顔をするので、やっぱり無理でした。赦してください。残された道はひとつしか無かったのです。
靴を乱雑に脱ぎ捨てて、柵を乗り越えた先で、あなたの影がゆらりと揺れた気がした。

「一筋の光」