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今日も君はなぜか悲しんでいる。俺が君のいる部屋に入ると、君は焦ったようにさっと何かを背に隠した。俺の顔を見れば、下手くそに口角を上げて、歪んだ笑みを浮かべる。
「おかえりなさい」
取り繕ったようなかわいらしい笑顔。
必死な無力さ、かわいいね。君が隠しているスマホ、圏外なんだって言ったよね?馬鹿っぽくて、浅はかで、ほんとうにかわいいね。
「ね、俺が居なくて暇だったのかな?ケータイで何してたの?俺に見してよ」
彼女はごくりと唾を飲む。彼女の首を伝った汗を俺は見逃していない。
「も、もってないよ、なんで?」
「嘘はやめなよ」
見せてもらえなくても、俺のスマホでなんでも確認できちゃうんだって、教えたことあったっけ?そっか、教えていたら、懲りずに見つけだしたスマホで誰かに電話かけようなんて試みるはずないもんね!
「もう捨てちゃおっか。いらないでしょそれ」
後ろ手に隠されたそれを無理やり奪い取って、近くに飾ってあった花瓶で思いきり叩き割った。手にじんわり滲む血もまったく気にならなかった。
怒りやら恐怖やらが混ざったように、怯えた顔つきの彼女に、不安をすべて取り去って、清々しい顔つきの俺。刹那彼女は泣き叫んだ。呂律すら回っていない、駄々っ子のような悲鳴に俺はひどく興奮した。
「こらこら、そんな声出したって俺以外には聞こえないよ〜……意味がないことなんだって、いつになったらわかるのかな」
何度も根気強く「無意味」を教え込む。躾も大変なんだなって、この頃感じました。

「意味がないこと」

11/8/2021, 10:27:03 AM