不特定多数

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7/22/2024, 8:27:05 AM

今一番欲しいもの

たまには掃除でもしようか。そう意識すると、急に部屋が埃っぽい気がしてくる。
それによく見ると、前と比べて使用頻度は変わっていないというのに、本棚やスツールやらが薄く埃を被っている。
雑巾を取り出して、部屋全体に乾拭きをかける。一つずつ多い家具はまだ捨てられず、使う人もいないのに丁寧に掃除をする。
不意にハッとして窓を見る。きっちり閉まっている。換気をしないといけないのだった。
いつも開けるのを忘れて注意されていたのに、もう気付くことのできる人は私しかいない。
少し肌寒くなってきたこの季節では気が進まないが、仕方ないので窓を開けた。
木枯らしが私の髪を揺らし、頬を撫ぜ、通り過ぎる。人ひとり分の温度がないこの部屋には、残滓だけが残っている。
ああ、あなたの温もりが欲しい。そう思った。

7/20/2024, 4:49:13 PM

私の名前

ぼくは村田ゆう。お道具箱にもそう書いてある。教えてもらった。
お母さんはよく「おい」とか「お前」とかぼくを呼ぶ。あまり分からないけど、多分これもぼくの名前。
クラスの人はぼくを「ゲジゲジ」と呼ぶ。何かは知らないけど、これもぼくの名前。
今日は算数のテストがある。先生が名前を忘れずに書くようにと言っている。名前を書こうとした。書こうとした。
どの名前を書けばいいんだろう。分からない。どうやって書くんだろう。分からない。どうしたらいいんだろう。分からなかった。

7/20/2024, 2:10:21 AM

視線の先 二次創作

部屋に入って目に入ったのは開けっ放しの窓と風に揺れるカーテン。今までだったらあいつがやってきたんだと思ったものだ。でもあの一件で僕を庇って大怪我を負ったあげく、崩壊する遺跡から落ちていったのではなかったか。ローザさんが換気のために開けたとしても、締め忘れは彼女に限ってない。
ただ窓が開いているだけであいつがやってきたと思うのは軽率だろうが、そう思うほどの積み重ねがあった。
もし、彼が生きていたら。彼は故郷をめちゃくちゃにした張本人で、頼れる仲間で、命の恩人で、何を思えばいいか分からなかった。
隣に立つ先生は何を考えているのか。僕なんかより遥かに複雑な気持ちだろうことは想像に難くなかった。
先生は静かに窓を閉めて、机の上にある手紙に目をつける。先生の視線の先には誰がいるのだろうか。憎き科学者か、頼もしい博士か、兄か。dearもない手紙を広げているとき、僕は紅茶を淹れることしかできなかった。

7/19/2024, 1:45:57 AM

私だけ

あなたのそばにいるとき。
あなたからのメッセージを読むとき。
あなたに抱きしめられているとき。
私にはあなただけしかいないと思う。

私のそばにいるとき。
私からのメッセージを読むとき。
私を抱きしめているとき。
あなたにとっての唯一が私であれと思う。

7/16/2024, 5:48:52 PM

空を見上げて心に浮かんだこと

ああ赤い、赤い。夕暮れよりよっぽど燃えていて、情緒なんてないただの赤。
脳が茹るように熱い。どうせ電気は止まっているし、どこに行っても逃げることはできないから、ベランダでタバコでも蒸すことにした。
周りを見れば泣き叫ぶ人、祈る人、最愛の人と過ごす人もいるのかな。僕は一人で空を見ている。
視界の端で何かが燃えているが、もう頭を動かすのに使う体力さえ残っていなかった。目の前には赤しかない。最後に見るのが星も雲もなにもないベタ塗りみたいな空だとは思わなかったなあ。空って、清々しく青いものだと思ってたけど、こういうのも悪くないかも、なんて。
耳の奥のチリチリした音を聞いている。

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