短いまつ毛に寝癖がついてる
髪のはね方は相変わらず どれが寝癖でどれが元からだったか
味噌汁の味噌、ちょっと入れすぎたって笑う
そんなことよりこの芸術的なネギがいいねって笑い返す
トーストの上のバターが溶けきる前に 慌てて塗りきって 端っこの方が少し 素朴なパンそのものの味
朝顔が毎日少しずつ伸びる
と思っているうちに、生い茂っている
今年も立派なグリーンカーテンができた
赤ピンクやまだら模様の大きな水玉と蔦巻く緑葉からなる日陰は秘密の楽園みたい ここで朝飲む珈琲が好きだ。
とは言わない。ポエティックが過ぎて恥ずかしいので
おかえりと言う時とただいまと言う時がある けどいつも何かしらは言う
夕餉支度の湿度が窓を曇らせる
雨が降っていたことに気づかなかった 部屋の中の音が鳴り止まないから
電気を消して気づく 人の呼吸音の大きさ
何かを忘れている気がするけど、身体が寝たがっているので従順に横になる
知らない匂いはいつの間にか無臭になった
鼻が馴染んだらしい もうきっと これからは 自分独りの部屋の方が、知らない匂いになる
何を忘れていたか思い出した
おやすみと言うのを忘れていた
暗闇の中で「おやすみ」と言うと、小さなモニョモニョとした聞き取れない返答と、あったかい手のひらがお腹の上に落ちてきた
(日常)
黄緑、というかもっと黄みがかった明るい緑…ライムグリーン?が好きです
なんでだろ~と考えてみたところ、今思えば色づく直前の稲穂の波の色だったのかもね
台風で倒れる前の……、ここで台風が来なければ綺麗に色づいて風にそよぎ、ナウシカのワンシーンみたいな綺麗な金色の野になる
収穫の目前は、いきものにとって希望に満ちる季節だね
いつもアパートの2階の空を眺めていた。
ここではいけないなあ、と思いながら。
思考が働かなくても赤ん坊の泣き声が私を動かした。
私は『もう死んでしまいたい』と言ったあの人を羨ましいと思いながら、「私は大丈夫です。死なないと思います。死んだらいけないと思うんです」と聞かれてもないのにどこででも繰り返していた。
この子がいなければ義務も苦しみも生まれなかった。けど、この子がいなければきっと私はもういなかった。
取り繕うことのできない正直者なので、保健士や病院の言う通りに薬を飲んだりしていたらいつの間にか健康体になっていた。
生きたいと思ったことは昔からないので相変わらず早く終わらないかなあと思ってはいるけど、聞かれてもないのに「大丈夫です私は死なないです」なんて繰り返す奇行はしなくなっていた。黒歴史に近い。周りの人は何も言わない。何も言わないでいてくれてありがとう、恥ずかしいので。
さて私の『義務』は現在、家の中ではつらつと笑顔を振り撒き笑い声を響かせており。
時々ふすまに穴を開け、床を泥だらけにし、叱られて泣き、反省して、次の瞬間にはもう踊ったり笑ったり、微妙な出来の駄洒落を言ったり、天才歌手や画伯になったりして。
あなたがいたから、私は苦しみの中でもただ生きることがやめられなかった。
あなたがいるから、私は幸せ。
本人にはとても言えないので、ここで吐き出し。
このアプリを開いた時に最初に出てくる文章記入画面のグラデーションが、『落下』の色に似ている
記念日とかを大事にするタイプではないけど「そういえば1年前だったね」と言った。何がというのは恥ずかしいので言わなかった。出会った日というか、雷が落ちたかのような衝撃に目を奪われたまま動けなくなったあの日からちょうど1年。内容は言わなくてもきっとわかるだろうと思ったし恥ずかしいからむしろわからないでくれとさえ思った。
「そうだっけ?」
不思議そうな顔をしてきみは言った。そして目を閉じて少しだけ眉間に皺を寄せて「うーん」と唸った。
「もう少し前だったと思うけど。海のすぐ近くなのに、こんなにじっとりしてなかった」
返答に迷っていると、「なんだ、覚えてないんだ」って嬉しそうに笑った。なんで覚えられてなくて喜んでるんだよ。ていうか、覚えてるし。一瞬すれ違っただけなのに覚えてるんだって、驚いちゃっただけだし。
記念日を大事にしていそうに見えて、実際は全然興味も執着もないし淡泊でずぼらでテキトーなやつ。それなのに1年と少し前、まだ恋愛のレの字の書き出しどころか予兆すらなかった微かな出会いをはっきりと覚えていて、まるで自分だけが知ってる宝物を抱えるみたいにして笑っている。
二度目だからって耐性があるわけでもないし容赦もない。ただ甘んじて受ける、1年越しの落雷。