老いた庭師は
縁側に腰を掛けゆっくりと息を吐く
今日亡き妻と世話した庭の紅葉を焼くつもりである
炎にかつての声を
煙にかつての仕草を
灰に過ぎた季節の温もりを見た
昔の情熱はまるでないが
モノと引き換えに精神は満たされた
消えた時間は灰と混ざり
翌春の、来世の、
まだ見知らぬ誰かの芽吹きの予兆になるだろう
そう願ってまた息を吐いた
燃える葉
誰かさんが
誰かさんが
誰かさんが
見つけた
今日は誰が何を見つけるのだろう
期待、集団、自立、競争、友情、挑戦
時にそれらは
重圧、孤独、放任、比較、猜疑、混乱
と姿を変える
苦悩は理解され難く、
共感を浴びても意味はない
あいてしまった穴の型は見つかりづらいが
埋めてもらわねば進めない。
誰かが誰かを
誰かが誰かに
見つけられるその日まで
誰か
人間は夢がないとかなんとかいって
自分の色を見落とし
世界が暗く見える時があるらしい
人生は塗り絵みたいなもので、
その章が終わっただけだと思う
次のページをめくったら、
ただ白くて黒かっただけだと思う
鮮やかな蛍光色はここでおしまい
次は色鉛筆かな。
水彩かな。
ペン画かもしれない。
また染め上げればいい
人から色をもらえばいい
少しずつ本から会話から趣味から
暗く見えるのは平常仕様だよ
新しい絵が出来上がるなら
モノクロもなんだか悪くないね。
モノクロ
それでもあの夏の匂いは
胸の奥をくすぶっている。
蝉の声
湿ったアスファルト
蚊取り線香の残り香
大人を横目に
終わらない暑さに身を覆われて
小さな体は畳に転がる
戻らない時間と消えない記憶
いつかは忘れてしまうのだろうか
巡り巡る季節の裏で
未だ少しだけ思い出す
永遠なんて、ないけれど
布団の温もりを惜しんで朝を迎えると
窓の外に小鳥がとまっていた
サンドウィッチをトーストして
コロンビア豆のコーヒーを淹れて
少しの時間眺めていたら
余裕という名の贅沢など跡形もなく消えてしまった。
何時に起きても
支度をすれば同じ時刻
無情にも進む時計の針を尊敬するよ。
コーヒーは後味にとっておくべきだったと
少し悔やみながらサンドウィッチを頬張る
静謐で優雅な朝を夢見る日々は
いつも少しだけ忙しない
コーヒーが冷めないうちに