高く舞い上がる鳥をみると、
空を飛べたらと思う。
優雅に泳ぐ海の生き物をみると、
水中でも息ができたらと思う。
暗雲から雨が降ると、
水と一緒に流れたいと思う。
ないものねだりに似た実現不可能なこの思考は
毎日、毎日、繰り返されている。
空を自由に操れる羽もない
広大な海に家を持つこともできない
地に泉を生むことさえできない
人間には何も与えられなかったのか
そんなことはないらしい。
何もできない代わりに伝承を語り文明を生んだ
何もできなかった先人たちが
命を懸けて興味を後世に継いだ
何にもなれない代わりに学ぶことを許された
人間にはどこまでも想像する知恵が与えられた。
知恵こそ羽のように、尾鰭のように、雲のように、
自らを自分の世界へ導いてくれる
さあ、今日はどこへいこうか
#14どこへいこう
午後9時23分
住んでいる地域が停電した
スマホのライトで照らして安否を確認
10分、15分、
長引いているみたいでなかなか回復しない
――外へ出よう
不意に駆け巡った思考
感情に支配されたように
気付けば靴を履いて玄関に手をかけていた
同居人に声をかけられた気がしたが足は止まらなかった
満天の星で埋まる天井
こんなにも鮮明に星を眺めたことは初めてだった
胸が高鳴り夢中で上を向いて目を輝かす
まるで幼い頃に戻ったよう
電気のない時代にタイムスリップしたかのよう
この星をみて人は航海をしていたのだろうか
この星をみて時間を測っていたのだろうか
以前は真っ暗な世界を照らした小さな星明かり
溢れ出す感動に生きていて良かったとまで思う
まだ夜は空気が冷たい季節
まだ凍えるのに
その寒さがなぜか心地良い
#13星明かり
気に入った花びらを1枚だけ
葉っぱも1枚
綺麗な植物からひとひらずつ。
押し花にして栞にするの
#12ひとひら
ベンチに座る小さな女の子
花を摘み
花びらを引く
数は8枚だった
数少ない感情に追加される失恋
男の子が言葉をそっと渡す
手は後ろに隠れていた
"すきだよ"
小さな手が抱えていたのは大きな花束で
優しくて純白の花
花びらの数は全部5枚だった
"おはなはえいごでフラワーなんだよ"
照れ隠しなのかかわいい知識を教える男の子
女の子は男の子に抱きついた
その顔は満面の笑みだった。
#11フラワー
趣を感じ、亡き故人に想いを寄せ、
儚く散るから美しいと詠う人
綺麗事を嫌う歌人
嫌味を皮肉で返す歌人
隣の国に苗を植えてしまう派遣人
影響され桜の漢詩を詠む他国の詩人
桜並木を歩く農民
桜を好むお偉い様
どの時代よりも植物を大切にしていた人々が
夜桜をみたらどんな反応をするのだろうか
文明の利器により作り出された電球に何を思うだろうか
自分の桜の方が綺麗だと言うだろうか
種類が違うことに気付くだろうか
未来でも桜を大切にしていることに驚くだろうか
風物に想いを寄せるこの感性を受け継ぐことが
誰しもの宿命であるのだろう。
#10桜