路地裏を進んだらそこは花畑だった
幼い頃の世界が目の前に広がる
遠くまで花に埋め尽くされまるで天国であった
呑気に感動していると不自然に消える出口を見た
焦った。
走ったが間に合わない。
恐怖によって現実に引き戻された
ああ、夢だったのか。
良かったのか悪かったのか、
もう少し見ていたかった気もしてしまう
体を起こしてコーヒーを入れる
変わらない日々に飽きて動きが鈍い
それでいて刺激を求める自分
矛盾している
欲望と怠惰の争いは常に怠惰が白旗を上げる
そうやって今日もまた
他人の幸せを見ることしかできない
羨ましい、欲しい、勝てない、呆れる
隣の芝生は青い
今日はいっそう青くみえた。
青い青い
貴方は地獄に行くとおっしゃいました。
宿世からの契りを果たさせばとおっしゃいました。
なぜ私を連れて行かないのです。
後れるのは辛いものです。
どうか一日だけ下界にいらっしゃって。
そして一緒に身罷るのです。
貴方のいない天国になんぞ行きたくありませぬ。
ならば貴方のいる地獄で成仏いたします。
心安き場所は天国ではございませぬ。
貴方の胸で焼かれたい。
何を差し上げたら貴方に会えますのでしょう。
貴方に会えるのなら、
足一本など容易いことでございます。
今日も叶わず終わります。
ここに訪れたら夢かうつつか教えてくださいませ。
叶いそうにない本望を抱いてあと少し生きていきます。
今宵も貴方を想います。
どんなに離れても
高く舞い上がる鳥をみると、
空を飛べたらと思う。
優雅に泳ぐ海の生き物をみると、
水中でも息ができたらと思う。
暗雲から雨が降ると、
水と一緒に流れたいと思う。
ないものねだりに似た実現不可能なこの思考は
毎日、毎日、繰り返されている。
空を自由に操れる羽もない
広大な海に家を持つこともできない
地に泉を生むことさえできない
人間には何も与えられなかったのか
独りでに考えていると少女が言った。
そんなことはない。と
何もできない代わりに伝承を語り文明を生んだ
何もできなかった先人たちが
命を懸けて興味を後世に継いだ
何にもなれない代わりに学ぶことを許された
人間にはどこまでも想像する知恵が与えられた。
知恵こそ羽のように、尾鰭のように、雲のように、
自らを自分の世界へ導いてくれる
さあ、今日はどこへいこうか
どこへいこう
午後9時23分
住んでいる地域が停電した
スマホのライトで照らして安否を確認
10分、15分、
長引いているみたいでなかなか回復しない
――外へ出よう
不意に駆け巡った思考
感情に支配されたように
気付けば靴を履いて玄関に手をかけていた
同居人に声をかけられた気がしたが足は止まらなかった
満天の星で埋まる天井
こんなにも鮮明に星を眺めたことは初めてだった
胸が高鳴り夢中で上を向いて目を輝かす
まるで幼い頃に戻ったよう
電気のない時代にタイムスリップしたかのよう
この星をみて人は航海をしていたのだろうか
この星をみて時間を測っていたのだろうか
以前は真っ暗な世界を照らした小さな星明かり
溢れ出す感動に生きていて良かったとまで思う
まだ夜は空気が冷たい季節
まだ凍えるのに
その寒さがなぜか心地良い
星明かり
気に入った花びらを1枚だけ
葉っぱも1枚
綺麗な植物からひとひらずつ。
押し花にして栞にするの
ひとひら