ベンチに座る小さな女の子
花を摘み
花びらを引く
数は8枚だった
数少ない感情に追加される失恋
男の子が言葉をそっと渡す
手は後ろに隠れていた
"すきだよ"
小さな手が抱えていたのは大きな花束で
優しくて純白の花
花びらの数は全部5枚だった
"おはなはえいごでフラワーなんだよ"
照れ隠しなのかかわいい知識を教える男の子
女の子は男の子に抱きついた
その顔は満面の笑みだった。
フラワー
趣を感じ、亡き故人に想いを寄せ、
儚く散るから美しいと詠う人
綺麗事を嫌う歌人
嫌味を皮肉で返す歌人
隣の国に苗を植えてしまう派遣人
影響され桜の漢詩を詠む他国の詩人
桜並木を歩く農民
桜を好むお偉い様
どの時代よりも植物を大切にしていた人々が
夜桜をみたらどんな反応をするのだろうか
文明の利器により作り出された電球に何を思うだろうか
自分の桜の方が綺麗だと言うだろうか
種類が違うことに気付くだろうか
未来でも桜を大切にしていることに驚くだろうか
風物に想いを寄せるこの感性を受け継ぐことが
誰しもの宿命であるのだろう。
桜
痛いほど冷たい空気
そこに溶け込む沈黙
抱いている劣等感は耐え難いものだった
一方的に離れた心は気付かない方が幸せであった
話し方すら忘れた人に何を求めようというのか
15年友達をやってきたというのに
始め方が分からない
処理しきれない頭のまま
馴れ初めから話そうと心を決めると
ごめんなさい。
そう言われた
堪えたはずの涙がまた震えだした
通用する言い訳が思い付かない
――15年
短くはない時間が失われたことに脳が誤作動を起こす
お前は悪くない、振り出しに戻っただけ
だからまた話せばいい
感情を飲み込んで口を開く
はじめまして。
はじめまして
遅咲きの梅、咲き乱れる桜
窓を開ければ春風とともに舞い上がる
一面桃色に染まる瞬間は
息を呑むほど美しい。
馥郁たるこの部屋に
心を奪われるその感覚は
1200年前から訪れたご先祖様の仕業らしい。
春風とともに
雨が降ったあとにかかる虹を
幸福の兆しと呼ぶ者がいる
雨に隠した心はまた太陽に照らされる
四葉のクローバーもその一つなのだろうか
踏まれた傷から生える四つ目の葉は
花言葉で言えば復讐だ。
滅多に見られないから幸福
珍しいから幸福
症例の少ない難病までも君は選ばれた、と大人はいう。
虹も幸福の塊のようで、
なんせ七色でできているのだから。
素直に綺麗と思えない自分に
変わってしまったなぁと悲しくなる
病棟生活1ヶ月目
今日は虹が出たらしい
七色