ベンチに座る小さな女の子
花を摘み
花びらを引く
数は8枚だった
数少ない感情に追加される失恋
男の子が言葉をそっと渡す
手は後ろに隠れていた
"すきだよ"
小さな手が抱えていたのは大きな花束で
優しくて純白の花
花びらの数は全部5枚だった
"おはなはえいごでフラワーなんだよ"
照れ隠しなのかかわいい知識を教える男の子
女の子は男の子に抱きついた
その顔は満面の笑みだった。
#11フラワー
趣を感じ、亡き故人に想いを寄せ、
儚く散るから美しいと詠う人
綺麗事を嫌う歌人
嫌味を皮肉で返す歌人
隣の国に苗を植えてしまう派遣人
影響され桜の漢詩を詠む他国の詩人
桜並木を歩く農民
桜を好むお偉い様
どの時代よりも植物を大切にしていた人々が
夜桜をみたらどんな反応をするのだろうか
文明の利器により作り出された電球に何を思うだろうか
自分の桜の方が綺麗だと言うだろうか
種類が違うことに気付くだろうか
未来でも桜を大切にしていることに驚くだろうか
風物に想いを寄せるこの感性を受け継ぐことが
誰しもの宿命であるのだろう。
#10桜
痛いほど冷たい空気
そこに溶け込む沈黙
抱いている劣等感は耐え難いものだった
一方的に離れた心は気付かない方が幸せであった
話し方すら忘れた人に何を求めようというのか
15年友達をやってきたというのに
始め方が分からない
処理しきれない頭のまま
馴れ初めから話そうと心を決めると
ごめんなさい。
そう言われた
堪えたはずの涙がまた震えだした
通用する言い訳が思い付かない
――15年
短くはない時間が失われたことに脳が誤作動を起こす
お前は悪くない、振り出しに戻っただけ
だからまた話せばいい
感情を飲み込んで口を開く
はじめまして。
#9はじめまして
遅咲きの梅、咲き乱れる桜
窓を開ければ春風とともに舞い上がる
一面桃色に染まる瞬間は
息を呑むほど美しい。
馥郁たるこの部屋に
心を奪われるその感覚は
1200年前から訪れたご先祖様の仕業らしい。
#8春風とともに
雨が降ったあとにかかる虹を
幸福の兆しと呼ぶ者がいる
雨に隠した心はまた太陽に照らされる
四葉のクローバーもその一つなのだろうか
踏まれた傷から生える四つ目の葉は
花言葉で言えば復讐だ。
滅多に見られないから幸福
珍しいから幸福
症例の少ない難病までも君は選ばれた、と大人はいう。
ならば患った者は幸せなのか
そんな幸せの象徴の塊が虹だ。
なんせ七色でできているのだから。
素直に綺麗と思えない自分に
変わってしまったなぁと悲しくなる
病棟生活1ヶ月目
今日は虹が出たらしい
#7七色