胎内記憶
前世の記憶
見えないものと話した記憶
彼の世のものに触れた記憶
夢のなかで再現された誰かの記憶
他人に理解されないであろうものたちほど
魂が捉えた情景が酷似しているという
人は睡眠が表であり活動が裏である。
どこかで読んだ一説の世界が正しいならば
目の前の全ては神の嚮壁虚造なのか
遠く離れた人と記憶が似るのは
真の世界がここではないからなのか
歳を重ねても消えない記憶は
科学が悶えるそれであり
結局何を示すのか、我々は知らずに死ぬらしい
記憶
次見られるのは生まれ変わってからかな
台風が去って一夜明けた
快晴とはこの事だろうと言わんばかりの蒼穹
大人でさえ心が高鳴る
快晴の空なんていつでも見られるだろう
余命2週間の君の前で考えた
地球が生まれて約46億年
キリストを拝みたくても
ダヴィンチに教わりたくても
徳川家康に仕えたくても
時空の超越は宇宙人の存在よりも不可解で
一生に収まり切らない規模らしい。
君を惜しんで何十年
また同じ空の下にいる
ただ、隣は空白で、
静かに黒い髪を靡かせた後ろ姿を思い出す
もう二度と見られない景色
もう一度だけ見たかった景色
もう二度と
行きつけの小さな本屋
店長の気分は甘味が教えてくれる
曇ってるね
柔らかい言葉と湿った声
閑静の中で何かが輻輳する
素朴な生活に少しの嗜好品は
邪を祓い幸を招く
今日はキャラメルだった
茶色のエプロンから伸びた大きな手は
そっと扉を閉めて首筋を掻く
小さな紫陽花が描かれたマグカップ
低気圧だから、どうぞ
渡されたココアは心臓のように熱かった
曇り
心臓が痛いほど波打つ
自分が誘うのとはワケが違う
動揺につけ込む口は
離したほうがいいなら離すと
優しいのか何なのか、ずる賢い提案を投げる
きっと詐欺師とか上手くやれるよ。
…ほら、手が熱くなってきた。
少しだけ離してほしいな
質問はしないで
慌てると比例して速まる鼓動に
君はまた少し口角を上げる
手を繋いで
幼い頃長らく夢をみていた
医者になりたかった
病弱の自分と難病を患った親戚
動機には十分すぎたが故に現実味が消えた
藁をも縋り、雲をも掴む者
私情の塊に光を失い、目の前の計算ですら手放す者
後者だった時はどんな反応をすればいい?
諦めた挙げ句藻掻いて得た中途半端な知識ほど
要らないものはない?
叶わぬ夢
――もし戻れるのなら
虫の良い話だ
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叶わぬ夢