胎内記憶
前世の記憶
見えないものと話した記憶
彼の世のものに触れた記憶
夢のなかで再現された誰かの記憶
他人に理解されないであろうものたちほど
魂が捉えた情景が酷似しているという
人は睡眠が表であり活動が裏である。
どこかで読んだ一説の世界が正しいならば
目の前の全ては神の嚮壁虚造なのか
遠く離れた人と記憶が似るのは
真の世界がここではないからなのか
歳を重ねても消えない記憶は
科学が悶えるそれであり
結局何を示すのか、我々は知らずに死ぬらしい
#6記憶
次見られるのは生まれ変わってからかな
台風が去って一夜明けた
快晴とはこの事だろうと言わんばかりの蒼穹
大人でさえ心が高鳴る
快晴の空なんていつでも見られるだろう
余命2週間の君の前で考えた
地球が生まれて約46億年
キリストを拝みたくても
ダヴィンチに教わりたくても
徳川家康に仕えたくても
時空の超越は宇宙人の存在よりも不可解で
一生に収まり切らない規模らしい。
君を惜しんで何十年
また同じ空の下にいる
ただ、隣は空白で静かに
黒い髪を靡かせた後ろ姿を思い出す
もう二度と見られない景色
もう一度だけ見たかった景色
#5もう二度と
行きつけの小さな本屋
店長の気分は甘味が教えてくれる
曇ってるね
柔らかい言葉と湿った声
閑静の中で何かが輻輳する
素朴な生活に少しの嗜好品は
邪を祓い幸を招く
今日はキャラメルだった
茶色のエプロンから伸びた大きな手は
そっと扉を閉めて首筋を掻く
小さな紫陽花が描かれたマグカップ
低気圧だから、どうぞ
渡されたココアは心臓のように熱かった
#4曇り
心臓が痛いほど波打つ
自分が誘うのとはワケが違う
動揺につけ込む口は
離したほうがいいなら離すと
優しいのか何なのか、ずる賢い提案を投げる
きっと詐欺師とか上手くやれるよ。
…ほら、手が熱くなってきた。
少しだけ離してほしいな
質問はしないで
慌てると比例して速まる鼓動に
君はまた少し口角を上げる
#3手を繋いで
幼い頃長らく夢をみていた
医者になりたかった
病弱の自分と難病を患った親戚
動機には十分すぎたが故に現実味が消えた
藁をも縋り、雲をも掴む者
私情の塊に光を失い、目の前の計算ですら手放す者
後者だった時はどんな反応をすればいい?
諦めた挙げ句藻掻いて得た中途半端な知識ほど
要らないものはない?
叶わぬ夢
――もし戻れるのなら
虫の良い話だ
返答を求む、よろしくコピー
#2叶わぬ夢