記憶を遡る
昨日置いた鍵がないことに気が付いた
どこにしまったっけ
どの鞄を使ったっけ
忘れた、
幸い外では使わないものだから
きっと家の中にあるだろう
鍵が見つかるまで合鍵使います。
しょうがないこんな日もある
母はこんな日しかないよと言う
鍵の乗った船は未だ記憶の海を漂う
記憶の海
人間が手を加えていない世界
未知不気味恐怖廃墟
つまらないもので存在を印象づける
そのくせ都会に疲れたからと逃げてくる
ある人は縄を、ある人はテントを持って、
都合の良い生き物である。
──景色が圧倒的だった
──心霊現象起きるらしいよ
拡散されれば人が集る
ここもまた汚されるのか
死神がポーンとピアノを弾く
景色が好きな老人が、
廃墟に住む綺麗な恋人が、
熊に乗った子どもが、
ピアノの周りへとやってくる
静かな森が、戻りますように。
密かな望みが届くことを願って。
静かな森へ
神様は時々残酷である。
向日葵の咲く季節に人を摘む。
その人は人より少し乱暴で、忘れっぽくて、
人見知りなくせに慣れれば気さくで、
何よりも本が好きで誰よりも世界を愛していた
そんな人が突然帰ってこなくなってしまった
難病だった。と
悲哀、混沌、動揺、拒絶
突然の出来事で血管がはち切れそう
難病なんて聞いていない
いなくなってから考えが巡る
あの時の言葉もあの時泣いていたのも
全部この世から、この世からいなくなるから、
徐々に生きた心地が消えてゆく
もっと何か思い出を、、
「隠しててごめんね――」
あぁ、だめだ読まなきゃ良かった
流れる涙にインクが滲み、
声が届かない虚しさで息が詰まる
これから一人でどう過ごせと言うんだ
手紙なんかより君が欲しい
そんなことが3年前
向日葵をみるとよみがえる
神様は時々残酷である。
手紙を開くと
路地裏を進んだらそこは花畑だった
幼い頃の世界が目の前に広がる
遠くまで花に埋め尽くされまるで天国であった
呑気に感動していると不自然に消える出口を見た
焦った。
走ったが間に合わない。
恐怖によって現実に引き戻された
ああ、夢だったのか。
良かったのか悪かったのか、
夢ならもう少し見ていたかった。
体を起こしてコーヒーを入れる
変わらない日々に飽きて動きが鈍い
それでいて刺激を求める自分
矛盾している
欲望と怠惰の争いは常に怠惰が白旗を上げる
そうやって今日もまた
他人の幸せを見ることしかできない
羨ましい、欲しい、勝てない、呆れる
隣の芝生は青い
今日はいっそう青くみえた。
青い青い
貴方は地獄に行くとおっしゃいました。
宿世からの契りを果たさせばとおっしゃいました。
なぜ私を連れて行かないのです。
後れるのは辛いものです。
どうか一日だけ下界にいらっしゃって。
そして一緒に身罷るのです。
貴方のいない天国になんぞ行きたくありませぬ。
ならば貴方のいる地獄で成仏いたします。
心安き場所は天国ではございませぬ。
貴方の胸で焼かれたい。
何を差し上げたら貴方に会えますのでしょう。
貴方に会えるのなら、
足一本など容易いことでございます。
今日も叶わず終わります。
ここに訪れたら夢かうつつか教えてくださいませ。
叶いそうにない本望を抱いてあと少し生きていきます。
今宵も貴方を想います。
どんなに離れても