『ずっと隣で』
「おおきくなったらパパとけっこんする!」
と可愛らしい夢を語った娘も
「パパの服と一緒に洗わないで!」
なんて悲しい事を言うようになり……
「……パパ、会わせたい人が居るの」
などと聞き捨てならない言葉をぶつけてくる
「ねぇパパ、今まで育ててくれてありがとう……」
「何言ってるんだ、パパはまだ認めてないぞ」
そう扉の前で照れ隠しをすると娘が「もうパパったら……」とはにかんだ。
あんなに小さかった娘が今では私と肩を並べるほど背が伸び
妻に似て美しく育った。
育ってしまった……
ずっと隣で成長を見てきて、こんなに嬉しくて悔しい事があるだろうか。
「綺麗に育ちすぎちゃったなぁ……」パパ心配だよと呟くと
娘は誇らしそうに
「パパとママの自慢の娘だもの、綺麗じゃなくっちゃね!」と妻に似た顔で笑う。
出来ることならこの手を離れずにいて欲しかった、それでも娘の幸せが私たち夫婦の幸せだ……
「ーーくんの事が嫌になったらいつでも帰ってきて良いんだからな?」
「ふふ……はぁい。その時はお願いね、パパ」
ーー皆様、長らくお待たせ致しました…………
司会者のアナウンスが聞こえ、扉が開く
今日は、小さかった娘の晴れ舞台。
今までは隣で。これからは少し後ろから……
ずっと見守って居よう。
『落ち葉の道』
「ふふ…まるでレッドカーペットね」
そう笑う君の笑顔はまるで少女のように愛らしい
「お手をどうぞレディ」
「もう、レディって歳じゃないでしょ」
恥ずかしそうにそう返す彼女の手を取りエスコートする。
ザクザクと小気味よい音と並木道を行き交う人の声が
まるで音楽のように混じり合う。
「ちょっと!」
クルッと彼女を回転させ抱き寄せる。
突然の事に驚きながらも美しく揺れる髪とスカート
「ごめん、つい踊りたくなっちゃって」
クツクツと笑う僕に呆れたように息を吐く
そんな溜息さえもどこか楽しそうで
それがまたどうしようもなく幸せだった
もうすぐ冬が来る
そしたらここは純白の絨毯が敷きつめられて
キラキラと光るんだろう……
その時は君の手を取って何度目かも忘れた愛を誓おう。
「では気を取り直して、お手をどうぞレディ」
「今度は振り回さないでちょうだいよ、ダーリン」
『君が見た景色』
肌を焦がす陽射し
風が頬を伝う汗を拭い
陽炎の中で君が揺れている
わたしはただひとり 君を目で追っている
どうか どうか消えないで…
わたしの傍に何時までもいて…
君の手を取りここに縫い止める
どうかわたしを見て その目に写して
君の見る景色に わたしを
空の様に澄んだ色をした
海の様に何処までも深いその瞳に
わたしは焦がれている
ほんの少しでも 君が見た景色に わたしを留めて
ふわふわと揺れるスカートの様に
風で遊びながら陽の光を広げていく
暖かなそれに包まれば、私を隠してくれる
透き通る布を被ればヴェールになり
彼とごっこ遊びをした時を思い出す
それはもう古くなって色あせて汚れてしまったけど
思い出の中ではいつもキラキラしてふわふわして大好きだった
『カーテン』
暖かく清潔感のある部屋、陽の差し込む大きな窓
部屋に入る光とは裏腹に外は雪が積もり灰色の世界だ
まるで色が無くなったように静かで、澄んだ空気が心地いい
僕はそんな季節が好きだった……
灰色の空を見ると部屋の中の方が明るく感じて
僕の世界が色鮮やかに見える
ここから動けない脇役の僕もまるで主役のように感じられる
そんな季節が好きだった。
春のような暖かな彼女と話すようになってから僕は冬が嫌いになった、まるで世界が終わってしまいそうに暗くて静かだから
もうすぐ僕の世界は終わる
春になる前になくなってしまう……
だからせめて最期だけは僕と一緒にいて欲しい
なんて、わがままだろうか
今日彼女が来たら僕の最後のわがままを伝えよう
『世界の終わりに君と』