結羽

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10/13/2025, 5:27:10 PM

『LaLaLa GoodBye』

僕の母語に近いようでいて、少し遠い歌声はウォークマンなり、携帯ゲーム機の音楽アプリなり、YouTube Musicなり、シャッフルで流れてくるたびに経験したことのない懐かしさを感じてしまう。
君のお国でいうところの……そう、沖縄と北海道くらいに遠い言葉、かな。
日本語にはそれなりの覚えがあるけれど、君の筑豊弁の全部を聴き取れるわけではないから。同じ県でもあんなに言葉が違うなんてね。僕のお隣の島国はいったいどれほどの言葉を宝として守られているんだろう?
聴いたことある?
aminのLaLaLa This Song
ふふ、思い出しただけだよ。暇つぶしに作詞アプリを開いてさ。君に教えたい歌をふと考えてたってワケ。そしたら、シャッフルでこの歌が流れてきたんだ。
良ければ君も聴きたい曲を教えてよ。二胡なりギターなり弾いて聴かせてあげる。



『この歌は別れを告げさせない』

8/8/2025, 6:52:41 AM

『僕から君へ 02』

君への帰り道を北としよう

荷物をまとめて
船に乗ったあの日のこと

君への帰り道を北としよう

そう決めた先、
船旅を続けていくうちに
羅針が君から遠ざかるのを
濡れた帆と一緒にじっと眺めていた

「君への帰り道はどこを目指したら辿り着く?」

【心の羅針盤】 2025-08-08

8/5/2025, 12:06:02 PM

ぷくぷくと、湯船に浸かってお下品に口もとを遊ばせていた冬のこと。
ぷくぷくと、中身の減ったジュースにお行儀悪くストローを吹かせていた夏のこと。
水を伝っただけの、こまかな泡はすぐに消える。
ジェットバスにあてられ、背中がひりひりとかゆくなった銭湯の帰りのこと。

音にするならばちん、だろうか。
水槽の循環器と一緒に、あるいは魚の息と一緒に、
気持ちよく、そこで弾けてみたい。
君は今日も泡を吹かせてくれるだろうか?

僕は今日も、君のつくった泡になれるだろうか?

【泡になりたい】 2025-08-05

8/4/2025, 3:34:56 PM

『僕から君へ 01』

あの人から聞いたことがあった
君の嫌がる季節のこと

アスファルトが鉄板みたいに焦げて、
田んぼの土がお風呂みたいに茹だって、
そうして僕たちの靴が地球の熱に熔ける頃。

そして、吐息が白くなると怒るあの人のことを思い出す。

僕の知り合いに、
冬の暗がりを怖がる人はいないから
きっと知り得ないんだろうな
寒さを、冷たさを、雪を、日の昇らない季節を嫌う人のこと

お正月の特番を最近まで溜め録りしていたのが嘘みたいに、
懐かしくなるよね。この光景が
君がスイカを買ってきてくれて
アイスはチョコとソーダ、どっちが良いと聞いてくれて
素麺のピンクのほうをおすそ分けしてくれて
扇風機の前で一緒に宇宙人になって
蚊取り線香を焚いて、い草で横になってお昼寝する

そうして西日に起こされる
眩しくて目が開けられないのに、
明日のラジオ体操に間に合わなくなるから
夜は早めに寝なきゃいけない

今でも嘘みたい。
むしろ、夏が僕を迎えに来てくれたみたい。



「今年も、君を待ってるよ〜。って、夏の空がね」



【ただいま、夏。】 2025-08-05

11/29/2023, 10:54:27 AM

「この歌をおわらせないで」



まだだ、まだ曲を止めるな。

ルノアの合図はラシーアに届いたか。
確かめるすべもなければ、状況を伝えてくれる者もいない。
この歌劇が幕を下ろせば、すべての徒労は泡沫と帰す。それだけは、何としてでも避けねばならない。
『安心して。わたしが公爵の気を引きつけるから』
彼女の言葉を信じて我々は“ 要塞 ”へ向かう。
公爵が少しでもこちらの動きに気付けば、人質もラシーアも無事では済まない。
『気をつけて、未紗ちゃん! その先は――』
寸時に聞こえた彼の声も、またノイズに掻き消されてしまう。要塞の発するジャミングウェーブだ。
「シェジフくん? シェジフくんッ!!」
未紗はインカムを握り締めて叫ぶ。返答はない。
もともと秘密通信支部局であった【シドルベイ】の事だ、外部からの傍受対策をしていない筈などないことは容易に想像できていたのだが。
「通信が途絶えた……どうしよう、中の状況が分からない」
要塞への防壁は三十層と隔てられており、一層一層の権限名も異なっていて厳重なセキュリティで閉ざされている。
しかし足を止めていては人質救出までに間に合わない。事は一刻を争うのだ、未紗に逡巡している時間はなかった。
「頼むラシーアさん……もう少しの間耐えてくれ」
ガラスの靴がなければ演者は踊れないと、誰が云った? こちとら砲撃に耐える鉄甲の躰もあれば、翔ぶための翼もある。
彼女が地底の劇場で舞うのなら、こちらは空の壇上で躍り狂おうじゃないか。
「術式展開――“ 剪逆 ”!!」
時計の針は“ VII(ジューテ) ”の方角を指し示す。
踊り出しに合わせて翼はさらなる機銃を展開する。
未紗の銃剣に閃雷が迸る。

「さあ、公爵……子供たちを返してもらおうか!」

耳をつんざく轟音――。
壁は一気に貫き灼かれ、辺りを豪炎が覆い尽くし、あとは鈍いばかりの余韻が脳を、躰を軋ませる。
何層の防壁も、如何なる鋼鉄の轍も、天地を越えた協奏の劇を前にすべては無力な鉄屑と化す。
未紗とラシーア。たとえ手を取り共に踊れずとも、二人の目が捉える敵は同じだから。



“ たとえ傍にいなくとも、あなたと同じ旋律で。 ”



2023-11-29
(2023-11-28のお題「終わらせないで」を使用させていただきました)

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