腹有詩書氣自華

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3/4/2025, 11:22:22 AM

翡翠のごとき肌、湿り気を帯びた瞳。
春日燈篭の中段にて鎮まり、じっとこちらを伺っていた。

おや、久しい

声をかけても、ひくりとも動く気配はない。
ただ、薄く瞬きをするのみで。

眼前に広がるこの庭園には、古から同じようなものが棲みついている。
雨の香を運ぶ頃に現れ、秋冷とともに姿を消す。
行く先は知らず、また訪れることも定められず


——さて、そなたは、あの子かな?


否、違うのであろう。
されど、こうして再び相見えたのだ。
それを“約束”と呼んでも、差し支えあるまい。

わたしが待つがゆえに、そなたが来るのではない。
そなたが誓うがゆえに、わたしがここに在るのでもない。

ただ、
───また会えた

その事実こそ世の理を超えて
繋がるものの証なのでしょう。

おかえり

そう言うと、翡翠の影はひとつ鳴き、青苔の陰へと、謐に消えた。




──────題.約束───

3/3/2025, 2:42:11 PM

ひらり、と舞ったのは、銀の糸であった。


朝露を含んだ細き絹糸が、朝ぼらけの光を受けて燦然と輝く。

風の戯れに誘われ、ゆるやかに宙をさまよう。
さながら路地で蝶により彷徨える少女の袖のごとし。

されど、糸の端には、かそけき命が結ばれている。
八つの足を持つ小さき魔女は、雫に濡れた千切れた羽衣を揺らしながら、しずしずと緑玉を磨き上げたような地に降り立つ。今にも滑ってしまわぬかと思われるが、ちゃんとそこに在る。

――風は、嫋やか。
――風は、益荒。

いかに細工を凝らそうとも、荒ぶった一陣の風に、砂上の楼閣のかのように掻き消されることもあろう。

それでもなお、糸を張る。
それでもなお、風に託す。

嗚呼、それはまるで、夜毎紡がれる夢の織物ではないか。

一夜のうちに生まれることも。一夜のうちに消えることも。
その果敢さを、愛おしさを、知っているがゆえに。

ひらり ──────

しめやかに揺曳する銀は舞い、どこかへと運ばれる。
それを見送るかの姿は魔女、いや、まるで運命を編む巫女。静かで、寂しく、美しい。


――さて、私も筆を執るとしよう。
この世に繋ぎ留めるために。
夢の糸を、言葉にして。



____________ 題.ひらり ____

3/2/2025, 1:11:55 PM

ほのやかに日が霧に光さす朝、庭の方から小さな足音が聞こえた。すたすた、ぴょん。すたすた、ぴょん。何かが石畳の上を跳ねているらしい。

────── 誰かしら?


縁側からそっと覗いてみると、小さな雀が一羽、ちょんちょん、と歩いていた。どうやら落ちていた米粒を見つけたようだ。すぐに飛び立つかと思ったけれど、こちらに気づいても逃げる様子はない。ふくふくと丸いその姿が、なんとも愛らしい。

しばらく見ていたら、不意に足元が冷えていることに気づいた。春が近いとはいえ、まだ朝はひんやりしている。

かすかな風が吹いた。軒先の梅がそよぎ、いちまいの花弁がひらりと舞う。やがて、雀は小さく囀ると、ふわりと空へと飛び立った。



さて、お茶でも淹れようか。

3/2/2025, 1:10:12 PM

ほのやかに日が霧に光さす朝、庭の方から小さな足音が聞こえた。すたすた、ぴょん。すたすた、ぴょん。何かが石畳の上を跳ねているらしい。

────── 誰かしら?

独りごつ、

縁側からそっと覗いてみると、小さな雀が一羽、ちょんちょん、と歩いていた。どうやら落ちていた米粒を見つけたようだ。すぐに飛び立つかと思ったけれど、こちらに気づいても逃げる様子はない。ふくふくと丸いその姿が、なんとも愛らしい。

しばらく見ていたら、不意に足元が冷えていることに気づいた。春が近いとはいえ、まだ朝はひんやりしている。

かすかな風が吹いた。軒先の梅がそよぎ、花弁がひらりと舞う。やがて、雀は小さく囀ると、ふわりと空へと飛び立った。



さて、お茶でも淹れようか。