ここが最後の部屋か
勇者がそう言って扉に手をかける
そこでふと
「おい、魔法使いはどうした?」
1人足りないことに気づいた
戦士の僕、勇者、僧侶
王道のパーティのはずが攻撃の要が居ない
ーーそこで僕はコントローラーを置いた
「またか……」
みんなの沈黙
そう、ソシャゲではあるあるかもしれない
寝坊?
体調不良?
急な仕事?
いや違う
「キャラデリされてる」
「そんなっ!なんで今!?
ここは組んで挑まなければ難易度が高すぎるからって今日のためにフォーメーションまで練習したのに!?」
インカムから流れてくる僧侶は涙声だった
泣きたいのは皆同じだ
この時のために装備や消費アイテムも揃えたんだ
それなのに引き返して改めてパーティを組まなくてはならない
「何か聞いてる?仕事で上手くいってないとか」
もしかしたら、何か僕たちは気を悪くさせる態度をとってしまったのかもしれない
「いや」
勇者は口を開いた
「人間関係リセット症候群だよ」
なにが気にいらないとかじゃない
衝動的にSNSなどをアンストしてしまう行動らしい
やっぱりか
恋愛沙汰があったとか
いじめがあったとかではない
それまでは普通だから
なんの兆候も得られず
突然の別れ
そして、ソーシャルネットワークでは
アカウント削除という行為で
彼女が自分で戻ろうと思わない限り
二度と会えない
そんな別れ
人との関係ってそんなにスッパリ切れるものなのだろうか
先細って連絡しなくなっていずれ会わなくなって、、、
そういうものじゃないのか?
簡単に切り捨てられる存在
少なからず捨てられた側には少しの澱がたまる
数日後、自身で戻ろうと思ったのだろう
普通にまたそのキャラクターで彼女は復活していた
明るく笑いかける彼女に
何事も無かったように話しているが
僕はまだ
このシステムに慣れることは出来ていない
曲がり角は注意してまがる
転校はしない
成績は中の上
体育祭では目立たない
クラスで友人は少なくないが中心人物ではない
常に目立たず
浮かず
輝かず
ゲームで言うならいわゆるモブオブモブ
略してMOB(同じだ)
そんな僕に恋物語は始まらない
そう思っていた
ーー彼女に会うまでは
……と書けばいかにも何か始まりそうだが
残念ながら別に物語が始める訳ではない
そうモブオブモブなのだから
でも僕は気がついた
そうか、片想いでも
「恋物語」は始まるのか
真夜中に家電がなった
時計を見るとAM2時30分である
普通に考えると不穏な知らせ以外に考えられない
眠い目をこすりながら
慌てて受話器を手に取った
耳に飛び込んできた第一声
「あんた誰よ」
かけてきたのはそちらでは?
まさしく、もしもし?である
「カズヒコ、そにいるんでしょ」
言葉にはださなかったが頭は???でいっぱいである。
誰ですか?カズヒコさん。
「いいから出しなさいよ」
色々聞き間違いも含めて、考えが寝ている脳みそを一周し、絞り出した答えは
「私はカズヒコではありません」
思わず英語の教科書に載っている和訳のような返事をしてしまった
「分かってるわよ、とぼけてないでカズヒコを出しなさいよ」
「カズヒコという人はいません」
思わず人でないカズヒコはいるような言い方をしてしまったか……と後悔したが特に突っ込まれなかった
相手にも余裕が無いようだ
しかし、随分な話である
そもそもはかけまちがいをしてきたそちらに非があるにもかかわらず真夜中にここまで初対面の相手をなじれるとは
一度冷静になって自分を省みて欲しい
そこまで考えると寝ぼけた頭にも少し怒りがわいてきた
温厚な質なので極めて冷静に
「とりあえず、おかけまちがいです」
とだけ言って
電話を切ってやった
しばらく待ってみたが、もう一度かかってくることはなかった。
恐らく、正しいカズヒコにさっきの女は誰かと更に怒りを倍増させてかけている事だろう
少しカズヒコに申し訳ない気持ちもあったが、こちらも被害者なので気にせず眠ることにした
実話である
愛があれば何でもできる?
愛があれば何をしてもいい?
愛がなければ何もできない?
この問にもし全部YESだったら
愛って万能がすぎる
でも実際これは大抵の人はNOだよね
まあ世の中には愛と勇気だけが友達のヒーローもいるわけだから
愛なんていらないって言ってしまうと彼は友達の半分を無くすわけで、それも申し訳ない
愛は必要だし
持っておくべきだけど
それだけでどうにかなる訳じゃない
たぶん
ごはんではなくて
そう きっと
おかず海苔みたいな存在
なのかな
後悔先に立たずということわざは
字面だけ見ると物凄いパラドックスを抱えている
後悔か先に立ったら後悔じゃなくなる
つまり?
後悔しないように振る舞えという教訓として捉えるならどの時点の言葉なのだろう
未来の選択肢は無数にあって
人間の人生にリセットボタンがない以上
他の選択肢の先を知った上でこれが最良だったなんてどうしたら分かるのか
比較できないのだから
他にいい方法があったのでは?と思うのは当たり前じゃないか
だとしたら本当の意味は
やる前に熟慮しろという戒めというより
「やっちまったものは仕方ないんだから四の五の言うな」
が正しいんじゃない?
なーんて、四の五の考える今日の昼下がりだった