曲がり角は注意してまがる
転校はしない
成績は中の上
体育祭では目立たない
クラスで友人は少なくないが中心人物ではない
常に目立たず
浮かず
輝かず
ゲームで言うならいわゆるモブオブモブ
略してMOB(同じだ)
そんな僕に恋物語は始まらない
そう思っていた
ーー彼女に会うまでは
……と書けばいかにも何か始まりそうだが
残念ながら別に物語が始める訳ではない
そうモブオブモブなのだから
でも僕は気がついた
そうか、片想いでも
「恋物語」は始まるのか
真夜中に家電がなった
時計を見るとAM2時30分である
普通に考えると不穏な知らせ以外に考えられない
眠い目をこすりながら
慌てて受話器を手に取った
耳に飛び込んできた第一声
「あんた誰よ」
かけてきたのはそちらでは?
まさしく、もしもし?である
「カズヒコ、そにいるんでしょ」
言葉にはださなかったが頭は???でいっぱいである。
誰ですか?カズヒコさん。
「いいから出しなさいよ」
色々聞き間違いも含めて、考えが寝ている脳みそを一周し、絞り出した答えは
「私はカズヒコではありません」
思わず英語の教科書に載っている和訳のような返事をしてしまった
「分かってるわよ、とぼけてないでカズヒコを出しなさいよ」
「カズヒコという人はいません」
思わず人でないカズヒコはいるような言い方をしてしまったか……と後悔したが特に突っ込まれなかった
相手にも余裕が無いようだ
しかし、随分な話である
そもそもはかけまちがいをしてきたそちらに非があるにもかかわらず真夜中にここまで初対面の相手をなじれるとは
一度冷静になって自分を省みて欲しい
そこまで考えると寝ぼけた頭にも少し怒りがわいてきた
温厚な質なので極めて冷静に
「とりあえず、おかけまちがいです」
とだけ言って
電話を切ってやった
しばらく待ってみたが、もう一度かかってくることはなかった。
恐らく、正しいカズヒコにさっきの女は誰かと更に怒りを倍増させてかけている事だろう
少しカズヒコに申し訳ない気持ちもあったが、こちらも被害者なので気にせず眠ることにした
実話である
愛があれば何でもできる?
愛があれば何をしてもいい?
愛がなければ何もできない?
この問にもし全部YESだったら
愛って万能がすぎる
でも実際これは大抵の人はNOだよね
まあ世の中には愛と勇気だけが友達のヒーローもいるわけだから
愛なんていらないって言ってしまうと彼は友達の半分を無くすわけで、それも申し訳ない
愛は必要だし
持っておくべきだけど
それだけでどうにかなる訳じゃない
たぶん
ごはんではなくて
そう きっと
おかず海苔みたいな存在
なのかな
後悔先に立たずということわざは
字面だけ見ると物凄いパラドックスを抱えている
後悔か先に立ったら後悔じゃなくなる
つまり?
後悔しないように振る舞えという教訓として捉えるならどの時点の言葉なのだろう
未来の選択肢は無数にあって
人間の人生にリセットボタンがない以上
他の選択肢の先を知った上でこれが最良だったなんてどうしたら分かるのか
比較できないのだから
他にいい方法があったのでは?と思うのは当たり前じゃないか
だとしたら本当の意味は
やる前に熟慮しろという戒めというより
「やっちまったものは仕方ないんだから四の五の言うな」
が正しいんじゃない?
なーんて、四の五の考える今日の昼下がりだった
「あークラゲが飛んでるー」
道を歩いいたら小さな子どもが空を指さした
見るとスーパーのビニール袋が風に身をまかてフラフラと飛んでいる
いや
よく見るとあれはゲイラカイトだ
小さな頃兄貴が買って貰っていて、それは羨ましかった外来種の凧
やっこ凧なんかとは一線を画した、黒や白の三角に模様の入ったビニール製の洋凧は
小学校でも持っている子どもは少なかった
子どものお小遣いでは買えない値段だったそれを
スーパーの袋を代用してそれっぽいモノを作ってみては
本物の飛行とは比べ物にならないクラゲを作ったものである
風を受けて高く上がる
風に吹かれて糸をのばす
やがて伸ばしきった糸が切れ
兄貴のゲイラカイトは野生の凧になった
およそ30年の時を経て
まさかこの令和で
私の頭上に
まだ飛んでいたのだろうか
動力は風
自然の力を鼻で笑うような飛行に
私は小さな敬礼をした