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11/11/2024, 7:53:04 PM

生まれつき、多くの障がいを持って産まれた私は、とても人間としての生活は送れませんでした。長くない一生涯を病室で過ごすことが確定していました。やがて、家族にも愛想をつかされ、見舞いに来る人は誰もいなくなりました。私は未来に希望を持つことがありませんでした。なぜ息をしているのかも分かりませんでした。
そんなある日、窓辺に1匹の鳥が落ちてきました。無知な私は鳥の名前が分からず、看護師さんに尋ねました。この鳥は雀と言うそうです。怪我をしていたので手当をしてあげたいと看護師に頼みました。看護師は眉をひそめ、少し困った表情を浮かべましたが、私の切実な態度を見て、渋々了承しました。しかし、菌があるといけないと言い、私が手当をすることは許諾してもらえませんでした。
私は体力が無いので、よく寝てばかりいました。半刻ほど寝ていたでしょうか、雀を手当した看護師が入ってきました。雀は片翼に包帯のようなものを巻かれて、よちよちと歩いていました。人間が怖いようで、私が手を伸ばすとビクビクと震え、机上でじっと固まってしまいました。看護師が、外に逃がしますと言いました。私は毎日この病室で、白い天井だけが友達でした。だから、こんなにも近くに生命体が存在していることに感動しました。私は看護師を必死に止めました。寂しいから、この病室で飼わせてくれと懇願しました。看護師が一瞬、哀れみと嫌悪の対象として私を見たのを、私は見逃しませんでした。看護師は許諾してくれました。
幸い、その雀は驚くほど鳴きませんでした。きっと喉に何らかの異常があるのだと思わせるほどに、鳴くことは1度もありませんでした。小さな病室で、2人の静かな生活が始まりました。私たちはお互いに欠陥があり、お互いに慰め合いながら生きました。雀の片翼は、傷が治っても飛べるようにはなりませんでした。それを知り、私は少し嬉く感じてしまったことは、胸の奥底にしまいました。
私の身体は日に日に弱っていきました。身体を動かすことがとても重労働に感じました。食欲が減り、身体はみるみるうちに痩せこけていきました。重い重石を乗せられているかのように、一日中眠っている日が多くなりました。
雀は、いつも私の傍に居ました。私を小さな身体で温めてくれました。
最期の日。とうとう私の元には、家族は訪れませんでした。その代わり、私の傍には雀がそっと寄り添ってくれていました。この小さな生命体と、人間では無い私。飛べない翼を持つもの同士、支え合って、精一杯生きてきました。短い人生。生まれた意味も分からない無意味なものでしたが、こんな私でも愛されたことをここに記しておきます。

11.11 飛べない翼

11/10/2024, 10:31:23 PM

いつの間にか伸びてきて
道に顔を出すススキは
夕日に照らされて
黄金に輝く波を打つ


11.10 ススキ

11/9/2024, 11:34:47 AM

トラウマというものは、なかなか消えてくれない。
あれからもう6年も経ったというのに、未だに立ち直れずにいる。夜眠るのが怖い。目を瞑るのが怖い。不意に思い出す記憶の断片が怖い。
脳裏に焼き付いて消えない、アスファルトを染める赤。四方八方に散った肉片。ものと化した身体。大きく見開き、こちらを見つめる眼球。辺りに充満する鉄の臭い。
ふとした瞬間に思い出す。そんなのをもう6年も続けている。周囲の哀れみと同情の目も、6年も経ってしまえば、呆れと軽蔑の色に変わる。
今日も息をするのがやっとだ。
この世界は本当に生きづらい。


11.9 脳裏

11/9/2024, 4:46:01 AM

朝から機嫌が悪そうで、棘のある言葉ばかりを放たれる。だけど私は、気を使って話しかけて、機嫌を取る。貶されても何を言われても笑って誤魔化す。グループの中心的な子に、嫌ないじられ方をする。周りの子たちも便乗する。嫌だなって思うけれど、悪気はないと分かっている。だからみんなの私を嘲る笑顔が、醜く歪んで見えてしまう前に、目を瞑って笑って誤魔化す。
家に帰って魂が抜けたように黙り込む。ぼーっとして、何も手につかなくなる。ご飯を食べて、布団に潜る。その時間だけすごく幸せを感じる。明日が来てほしくなくて、眠れない。でも明日は来てしまうから、今日も寝不足で学校へ行く。
私は心底、意味がない人生を送っている。


11.8 意味がないこと

11/7/2024, 3:35:16 PM

同棲して3ヶ月、私たちはそれなりに上手くやれていたと思う。お互いがお互いを気遣い、尊重し合う生活。譲れないことはぶつけて、お互いが快適に暮らせるようになった。そう思ってた。
「別れよう。」彼から突然告げられた。
私は、追いつかない頭で辛うじて理解して、
「どうして」それだけ呟いた。彼は嫌悪感を隠す素振りもなく、日頃の不満を並べだした。彼が発する言葉に、修復不可能な溝を感じ、聞いているうちに涙が溢れてきた。彼はそんな私を見て、なんでお前が泣くんだとそう言った。
そっか。理解し合えたと思っていた。それは私だけだったんだ。あなたとわたし。どこまで行っても違う人間で、全て分かり合うことなんて不可能だったんだ。


11.7 あなたとわたし

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