初めて手作りしたジェルキャンドル
底には海をイメージした白い砂を敷き詰めて
淡いピンクや白い小さな貝殻を散りばめる。
最後に金色の錨を沈めて
アクアブルーから徐々に透明になるように液体を注ぐ。
いくつかの気泡を閉じ込めて
固まったジェルキャンドルは
静かな海底を切り取ったように
綺麗だった。
あのジェルキャンドルは
当時の恋人にあげたけど
彼はそれを
どこかになくしてしまったらしい。
簡単に手放されて
火を灯すことも
観賞用としても
役目を果たせなかったあの子が
まるで自分のようだと当時は思った。
そんな苦い思い出のあるキャンドル。
今ではもう
なんの思い入れもない。
彼に対する想いは
もう燃え尽きて
灰になって消えたあとだから。
#キャンドル
夏は暑い。
私の旦那様は暑がりだから
ずっとくっついていたくても
夏だけは暑いからと
逃げられてしまう。
でも
だんだん寒くなれば
ずっとくっついていても怒られない。
白い息を吐きながら
年中温かい、カイロみたいな手のひらに
右手を包んでもらえる。
たとえ寒くなくても
“寒い”って言いながら
べったりくっつける絶好のチャンス。
寒い冬は嫌いだったけど
今は冬もけっこう好き。
だから早く
寒くなってくれないかな。
#冬になったら
片手に乗るぐらいの
小さくて温かくて、柔らかい生き物
黒目がちな目は
私の服のヒモに集中していて
何を見てるのかな、なんて見ていた
次の瞬間
ヒモ目がけて
短い手を目一杯広げて飛びかかってきた。
でもそれは最初の勢いだけで
大した飛距離もなく
地面に前足をぺたんとついて終わった。
パヤパヤした産毛に
このふわふわした動き
目の前にいる子猫の存在全てに
私達のハートは射抜かれた。
あの日から
この子は私達の家族になった。
子供のいない、私達夫婦にとって
この子は本当に
我が子同然だった。
あれから4年経った今では
子猫時代の10倍の大きさになって
家の中を我が物顔で歩いている。
お腹丸出しで寝ている姿は
まぁまぁ貫禄が出ている。
人で言えば、もう私と同い年くらいの年齢。
私が4つ年を取る間に
この子はもう
私と同じぐらいのニャン生を過ごしている。
子猫の時は
成長していく姿が微笑ましかったけれど
今はもっと
ゆっくり年を取ってほしいと願う。
#子猫
ずっと
空を見上げるしかなかった。
誰かが飛んでいくのを
見送るしかできない。
みんな私をおいて行ってしまう。
でも
羨ましいと思ったことはない。
だって私の翼は
飛べないけれど
みんなに綺麗だって言ってもらえるから。
翼を広げて踊ると
みんな私の周りに集まってきてくれる。
だからさみしくないの。
飛べないことを
バカにされることもあるけど
私が翼を広げると
逆に羨ましそうな目で見てくる。
だから
私は飛べなくても
今の私に満足してる。
私の翼は唯一無二
“飛べない翼も珍しいでしょ”
って
みんなに自慢しているの。
私は
誰にもないものを持っている。
それを悲観したりしない。
みんなと違うことは悪いことじゃない。
せっかく特別なものを持っているなら
悲観するのはもったいないもの。
#飛べない翼
私の人生の中で
1番記憶に残っているのは
やっぱり
この左の手首を叩き切ったことだろうか…
それまでは恋人に裏切られた瞬間が
1番記憶に残っていたけど
時間が経った今では
もう小さな出来事でしかない。
だけど
あの時はしんどくて
絶望の中を生きていた。
今思えばあんなこと
よくできたなと思う。
絶望の中を生きていた私は
存在自体が不要だと
恋人に否定された。
生きることが罪に思えたあのとき
私は自分の手首目がけて
包丁を振り下ろした。
空中で当たった腕が
反動で弾き飛ばされる。
手首には紅い一筋の線。
包丁で叩いても叩いても
なかなか血は出なくて
“あぁ、左腕も包丁に向かわせればいいんだ”
そう思って包丁を振り下ろすのと同時に
左腕も吸い寄せられるように
包丁とぶつかり合った瞬間
左手首からは
噴水のように紅い血が噴き出した。
“もう生きなくていいんだ”
“もう何も考えなくていい”
あの時はそんな感情だった。
左手首からは
温かい水に触れているような感覚が伝わってくる。
痛いという感覚はなくて
なんだか熱いような…
手首には力が入らなくて
ダラリとぶら下がっているだけ。
後に知ったけれど
動脈はもちろん
神経も手首の腱も全て切れていたらしい。
手が動かないわけだ。
でも今は
しっかり指も動かせている。
多少しびれは残っているけれど…。
私はこの手首の傷を見るたびに
あの日のことを思い出す。
あの瞬間が
フラッシュバックすることもある。
文字通り
脳裏に焼きついて
一生忘れないと思う。
でも不思議と
後悔はしていない。
あの出来事を経験したから
今の自分があるんだろう。
過去は所詮過去にしか過ぎなくて
今は心穏やかに
幸せに過ごしている。
これからはこの幸せで
過去を上書きできるように
今を生きていく。
#脳裏