彼とケンカした。
理由なんて小さなことだった。
こんなことで
彼との時間を無駄にしたくないのに
私は意地っ張りで素直じゃないから
口をつぐんだまま
下を向いている。
本当は謝りたい。
でも私の言い分も聞いてほしい。
私の考えを言ったら
余計にケンカが悪化するんじゃないか
呆れられるんじゃないか
いろんな考えがごちゃまぜになって
言葉が出てこない。
自分の気持ちを話すのは得意じゃない。
話そうとすると
声と一緒に涙も出てきてしまう。
“泣いちゃだめ”
喉がつっかえて
うまく話せないから。
でも結局泣いてしまう。
彼とケンカするといつもこうだ。
泣かずに話したいのに
最後はボロ泣き。
その後はなぜか彼も泣きながら
2人で仲直り。
いつか泣かずに
気持ちを伝えられるようになれるのかな。
#泣かないで
寒い冬の空
周りの電気は次々に消えていき
彼女は1人
夜の暗闇の中で息を潜める。
手足はかじかむけれど
心臓は熱くドクドクと脈打っている。
“早く会いたいな”
同棲中の彼を
寒さに耐えながら彼女は待っていた。
こんなところに
2時間以上待たせて
いつも平気な顔でやってくる彼を
彼女は疑いもなく愛していた。
いつからあんな男に熱を上げていたのか
彼女の心は朦朧としていた。
冷たい態度に怯え
小さな優しさに縋る。
上がりきるでも
下がりきるでもない
生殺しのような微熱の中で
彼女はいつ平常に戻れるのだろうか―――
#微熱
左隣で眠る愛しい人
その腕をそっと抱きしめて
今日も眠りに落ちていく。
明日あなたの声で
目覚めるまでは
幸せな夢の中に。
#落ちていく
夫婦って
いつかは別れるものだと思ってた。
でも旦那さんに出会って
その考えは塗替えられた。
お互いに支え合いながら
一緒に笑いあって
お互いしわくちゃになっても
手を握ってお散歩もして
一緒にお茶を飲んで
美味しいねってほっこりして
そんな
平凡で小さな幸せがある毎日を
一緒に積み重ねていきたいと
旦那さんは言ってくれた。
それは私にとっての理想で
諦めていた未来だった。
でも
同じ未来を夢見てくれるこの人となら
諦めていた未来も
きっと現実になると思った。
この人とだから
私は夫婦になりたいと思えた。
#夫婦
初めて手作りしたジェルキャンドル
底には海をイメージした白い砂を敷き詰めて
淡いピンクや白い小さな貝殻を散りばめる。
最後に金色の錨を沈めて
アクアブルーから徐々に透明になるように液体を注ぐ。
いくつかの気泡を閉じ込めて
固まったジェルキャンドルは
静かな海底を切り取ったように
綺麗だった。
あのジェルキャンドルは
当時の恋人にあげたけど
彼はそれを
どこかになくしてしまったらしい。
簡単に手放されて
火を灯すことも
観賞用としても
役目を果たせなかったあの子が
まるで自分のようだと当時は思った。
そんな苦い思い出のあるキャンドル。
今ではもう
なんの思い入れもない。
彼に対する想いは
もう燃え尽きて
灰になって消えたあとだから。
#キャンドル