~月に願いを~
願った所で何も叶わない事はもうわかっている。
それでも願わずにはいられないのは、他に頼れるものがないからだろうか。
空に光の線を残しながら消えていく星から視線を外し、そのそばで輝く月を見つめる。
変わらず光を反射するその姿にほんの少しの祈りの言葉を贈る。
不思議と心が軽くなるのを感じながら瞼を閉じた。
~いつまでも降りやまない、雨~
止む気配のない雨にうんざりとしながら空を見上げる。
こんな時に限って傘は持ち合わせていない。
それならいっそ、この状況を楽しむか。
靴も靴下も脱いで、地面を打ち付ける雨の中に飛び込む。
頬を包み込む冷たさに思わず目を閉じた。
雨に身を任せて後ろに倒れ込む。
自身の重さで泥にゆっくりと沈んでいく。
このまま眠れればどんなに幸せか。
ありふれた空想にしばらく意識を預けていた。
~あの頃の不安だった私へ~
毎日楽しい事を数えようと頭を抱える。
どれだけ頭を捻って楽しい事を並べても、それを覆い隠すように不安や虚しさが襲ってくる。
ふと意識を逸らすと、昨日の自分が問いかけてきた。
「不安はなくなりましたか?」
~逃れられない呪縛~
何をするにしても、あの人の言葉が頭によぎる。
「それは君には似合わないよ」
「どうしてこんな事もできないんだ」
言葉が聞こえてくるたびに、やりたい事も考えられなくなっていく。
自分で選んだ物は何もない。
一人でできる事も何もない。
「言う事を聞いていれば、苦しまずにすむよ」
いつもの苦しめる声で、優しい言葉をかけないで。
~昨日へのさよなら、明日との出会い~
代わり映えの無い日々が少しだけ退屈だった。
ほんの少しの新鮮さが恋しかった。
光と情報を垂れ流す街をぼうっと窓越しに見下ろしながら時間を浪費していく。
このままでいいのだろうか?
いいわけ無い事は分かっている。しかし何をすればいい?何もしてこなかった私には何も分からない。
指先で窓をそっと押すと無機質な音を立てながらゆっくりと開かれる。予想外の現象に目を見開いた。
案外、簡単な事なのかもしれないな。
見飽きた昨日までの世界に別れを告げて、窓枠を乗り越え明日へと一歩を踏み出した。