かに

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7/25/2023, 3:39:13 AM

名前は知らない お互いに
いつどこで生まれたか 何が好きかも嫌いかも
知らなくていいよ 君もそう思うでしょ

いつも階段の手すりに陣取っては
ふてぶてしく見下ろしてくるんだ でも
不思議と嫌味は感じない しばし目を合わせ ぱち おいでの合図

腰をとんとん ごろんとお腹 目を細めて泳ぐまんまる両手
…ちょっと警戒心低すぎじゃない?
水飲みたいのか飲みたくないのか はっきりしてよね
本当はなんて言いたいのかなぁ

誰にでも媚売るし 声はみゃーみゃー煩いし
人の気も知らないで獲物はほったらかし
君がもし人間だったらさ きっと今みたいに僕達
上手くはいかないよ

別にいなくても平気だけど
嘘 いないと寂しいな それなりに

巡る季節の傍に 君というささやかな彩りを
そこへ寝てるだけで上がる地価 毎度門番ご苦労様です
不自由の飴を舐めて 何丁目の宇宙へも!
帰ってきてくれる理由は 期待してもいいのかな

世渡り上手で ふわふわな
しっぽの生えた友達へ

<小さく短くとも>

題: 友情

1/26/2023, 10:42:57 AM


ホットティーを片手に日記をしたためる
今日の自分のバイオリズムを
ぼんやり頭上に浮かべながら

すでに薄暗い部屋
ラジオから流れるマイルス・デイヴィス
切なく香るシダーウッド
明日の天気は概ね晴れだとか

最後の一口を飲み干し
ナイトライトを消したら 離陸の合図
布団を被れば 今更疼く冒険心

眠りの雲の上 夢の中行きのフライト
しばしの間 ひとり時間旅行へ
そこでなら あの頃の君に会えるから

イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド
今となってはすべて幻
イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド
それでも空はいずれ白む

<見知らぬバーから、見知った平原へ>

題:ミッドナイト

1/25/2023, 4:23:21 PM

早々にシャッターの閉まった街
突き刺す冬の向かい風
規則正しい虫の吐息の音だけが微かに響く

耳が真っ赤に凍えるような空気の冷える日には
大切な人のためにスープを拵える

綻ぶ顔を思い浮かべながら
湯気の立った野菜たちを鍋の中でかき混ぜる
隠し味には 日々の寂しさと憂い

帰宅を告げるベルの音
いつもの落ち着いた声
芽生えた孤独の種を持ち寄って
安らぎの水で育てよう

いつか生った実を 美味しく頬張れるように

<またいっぱい買ってきちゃった>

題:安心と不安

1/24/2023, 9:32:50 PM


甘ったるい可視光線がつくる夢
それは終わりか始まりか

君で拡散する光の粒たち 二人分の白
名のない受動的なすがた
俗物のシルエット すべてが無機物に

もっと暗いほうへ行こうよ 狭い庇護は生温く
置いていかないで 痛みを共有させてはくれないの

その瞳に映るのはたしかにあどけない顔をした僕

遠く触れられない絵画の中
流され止まったままの秒針
差し出されるか細い手を取ったら
ふたりは変わってしまうかも

眩い赦しに 思惑をも溶かして

<朝焼け、夢の海岸にて>

題:逆光