一言で表すならニュートラル
肌をかすめる涼しい風が街を洗う朝
世界が終わっちゃう時みたいなベビーブルーの夕暮れ
放課後の子供たちは運動会の練習をして それぞれの温かい家へ散り散りに帰っていく
食卓に並ぶ秋刀魚と大根おろし
ある日はきのこの入った鮭のホイル蒸し
土にはつめたい鈴虫の鳴き声
空にひっそり輝くフォーマルハウト
本当の平和はきっとこの季節みたいなもののこと
金木犀の鍵で開くあまい夢の中
少しの切なさを抱いて
誰にも見つからないようにゆっくり一呼吸
意識をほどいて夜に溶けこんだら
月の光とないしょの逢瀬
いつか地上で死んじゃったら どうか迎えにきてね
夜は私を裏切らない
おとなは現実をやれっていうけどさ
幻じゃあだめなの
幻のほうがいいよ
<無題>
題:秋
不安症を患ってしばらく、夜の静けさに響く心音が恐ろしかった。意思に関係なく一定のリズムで動き続ける臓器が、なにか自分のものでないもののような気がしたからだ。
自分のものではないなら、止まるのも勝手だ。それが10分後なのか来週なのか50年後なのかは分からない。人生が幕を引かれる時、それは確実に経験する未来で。
いくら横になって静かにしていても、楽しくても悲しくても。
寝ていれば急かすようで、走れば宥めているような、
秒針のように無機質で、それでいてにくにくしい音。
生まれた瞬間から時だけを数え続ける、
私を生かし、殺すもの。
命はみな神の所有物なのだろうな、と思った。
<とくとくと>
題:胸の鼓動
雲の切れ間から差し込む光
かかる虹 葉先に滴る雨雫
心の奥ふかくで
小さな小さな核が 逸る鼓動に共鳴する
途方もない憧れが映し出す心象風景
突如晴れゆく視界
涼しい向かい風が透明な身体を通り抜けてゆく
一閃
足元からどこまでも広がる空間
花が驚き一斉に開き出す
プリズムで拡散する鮮やかな景色
いまがいまであると証して
尽きることのないエネルギーなら
いつかきっと辿り着くよ
曇りのない貴方の笑顔に会える場所
だからどうか見つめていて 未来の私
すべて自分の手で掴んでみせるから
<最果てで見たいもの>
題:きらめき
他人の言うこと真面目に聞かなくていいんですよ
と担任は言った
彼が今何をしているのかは知らない
見ず知らずの人間が吐いてった糸に
足を掬われ視界を奪われていく
絞り出すように言葉を紡いでも
空中で解け 靄に
上手くいかなくていいことなんかない
自分の身を守るためだけの糸で
他人を雁字搦めにしないでくれ
<欲しいのは鋏>
題: 上手くいかなくたっていい
蜘蛛のように狡猾で
蜂のように高貴な
あるいは
竹のように強かで
大樹のような貫禄を持つ
ものは山へ 隠され覆われ
蝶と花だけが大手を振ってひらひらと笑う
平易な美的印象の香りに絆される民衆
今日もそうして蚊を殺し 雑草を踏み潰す
石鹸とレースのハンカチで漂白された蚕は
コンクリートとアスファルトで固められた街並みを
何食わぬ顔で風を切って舞い歩くのだ
<苦手なもの>
題: 蝶よ花よ