不安症を患ってしばらく、夜の静けさに響く心音が恐ろしかった。意思に関係なく一定のリズムで動き続ける臓器が、なにか自分のものでないもののような気がしたからだ。
自分のものではないなら、止まるのも勝手だ。それが10分後なのか来週なのか50年後なのかは分からない。人生が幕を引かれる時、それは確実に経験する未来で。
いくら横になって静かにしていても、楽しくても悲しくても。
寝ていれば急かすようで、走れば宥めているような、
秒針のように無機質で、それでいてにくにくしい音。
生まれた瞬間から時だけを数え続ける、
私を生かし、殺すもの。
命はみな神の所有物なのだろうな、と思った。
<とくとくと>
題:胸の鼓動
9/8/2023, 12:13:30 PM