ススキの茂みの下で
鳴いていたキリギリス
横たわったままで
命が燃え尽きるまで
それでも鳴き続ける
最後の叫び
僕は知っていた
馬鹿にされていたことを
自業自得だと
好きで鳴いているわけでもないんだけれど
楽に生きてきたわけでもないんだけれど
それでも言い訳をする必要はないだろう
墓場まで持っていくことが結局一輪の花のように
美しいと思うから
犬を連れて外へ出る
まだ暗い仄かに明るい
夜明け前の一瞬に
一人と一匹は深い息をした
まるでそれが合図であったように
天は色を染めながら
影を落として存在を
浮かび上がらせていくのだろう
蝶が来て花に止まる
空を川鵜が飛んでいった
光の中を想いながら
そろそろ帰ろうと促した
僕は家のドアを開け
ただいまと一言呟いてみる
靴がひとつリードがひとつ
水を入れてコーヒーを沸かす
そしていつものように今日がやって来る
白い砂浜に咲いていたハマボウフウ
日本海側の小さな砂浜で
君と砂を積んでは壊したあの頃
波の音だけ今も忘れない
まだ幼い僕たちの物語
君が笑えば幸せだった
来る日も来る日も繰り返し
何も変わらぬまま時は流れ
いくつもいくつも夢だけが
浮かんではまた消えた
本気の恋だった
それだけは間違いなかった
何年も忘れぬほどに
素足で駆けた傷だらけの恋だった
海の水に沁みるほど
深く刻まれた恋だった
ただの紙切れに見えても
それは悪魔の紙切れ
命の炎はいつの日か
絶えるときが来る
僕は今日も両親に
ラインを送る
まるで当たり前のように
朝はやって来る
長生きなんかしたくない
そんな言葉を聞いても
僕には響かない
本当に本当に
時間が足りない
カレンダーそれは今日も
やって来る悪魔の紙切れ
数字は繫がって
いつか運命の数字が来る
僕が大学生
京都から山陰道沿いに
大きな藁屋根の集落があった
それはとても異様な風景で
心に深く刻まれた
僕が子供の頃
自転車で坂道を下りていった先に
いつも水が溜まっている場所があって
覗き込むとミズスマシやタイコウチなんかが
たくさんいた
僕が小学校の
校庭で
逆上がりの練習をしていると
青と茶色の客車列車がディーゼル機関車に引かれて
通り過ぎていった
友達とプールの帰り道
駄菓子屋の店先で
かんとだきを買って食べながら歩いた
僕はとても日焼けして
クロンボ大会にクラス代表で出た
商店街の魚屋の
店先にドジョウが
泳いでいた
食べてみたかったけど
うちの親はそのドジョウを水槽に入れた
喪失感
そんなものはないけれど
色々な思い出がまだまだ眠っていると思う