私の名前は宇野真帆。松実小学校5年3組の担任だ。
松実小学校の最終下校時間は午後6時。
午後5時50分。放送委員が校内放送をかける。
「あと10分で下校時間になります。学校に残っている生徒は速やかに下校の準備をしましょう」
今日は私が見回り当番だ。生徒たちが残っていないか全ての教室を見て回る。今日はクラブ活動があったから、残っている子も多いに違いない。
音楽室には音楽クラブの女の子たちがおしゃべりをしている。放送が聞こえなかったかしら。私は扉の外でそっと杖をふる。するとピアノがポロロンとなった。女の子達はびっくり。
「今、ピアノがならなかった?」「おばけ?」
大慌てで帰っていく。
女の子たちはかわいい。これくらいでびっくりしてくれる。やんちゃな男の子たちはおばけだと思うと余計に興味を持って探りを入れてくる。
次は体育館。バスケットボールクラブの男の子たち。まだ練習を頑張っている。私は体育館の脇でまた杖をふる。
「残っていのは誰だ?ルールを守れないとレギュラーから外すぞ!」
私の声がバスケットボールクラブのコーチの声に早変わり。
男の子たちは慌ててボールを片付け始める。
見回りは終了。生徒たちはみんな帰って行った。
さて次は職員会議だ。職員会議が終わって先生方も帰宅していく。午後7時過ぎまだ残業をしている先生が2人いる。生徒より厄介だ。私は2人の先生に声をかける。
「遅くまでお疲れ様です。飴をどうぞ」
この飴は舐めると用事を思い出す魔法の飴。私の手作りだ。
2人の先生も用事を思い出して帰っていく。
さてこれで学校にいるのは私だけ。慎重に戸締りをする。
最後に5年3組に戻って杖をひと振り。クラスの座席も子ども達の作品も一変した。
午後8時になった。私はクラスの窓を開け放つ。
1番最初にやってきたのはツバメ。そして前から2番目の席に座る。
「おはよう、ヒカリさん。高速で飛んできたのですね」
ツルは窓から入るのに苦労している。
「おはよう、サツキさん。優雅で素敵です」
次にタカ。
「おはよう、ミカドさん。かっこいいですね。ただ、タカには耳はないと思いますよ」
続いて、シジュウカラやスズメ、ヒバリにカラスもいる。私は1羽1羽に声を掛け、鳥たちはちゃんと席に着く。
席が全部埋まると、私は全員に向かって声をかける。
「みんなちゃんと宿題をやってきましたね。元の姿に戻りましょう」
私が声をかけてるとみんな人間の姿に戻る。なかなか戻れない子もいるが、隣の席の子が手伝ってあげたりする。今日の宿題は鳥に変身すること。
「さて、授業を始めましょう」
私の名前はウノマホ。まほうの先生だ。
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お題:放課後
目を覚ますと周りは白いカーテンだった。
カーテンを通してやわらかな外の陽射しが入ってくる。
「ああ、保健室だった」さやかは自分が保健室で眠っていたことに気がついた。頭も体もすっきりしている。
3時間目の体育の時間、急に頭がクラクラして立っていられなくなった。そのまま保健室のベッドに横になると熟睡してしまったようだ。
昨日の夜読んでいた本がおもしろくて、止められなかった。一気に読み終えて時計をみたら、夜の11時を回っていた。
さやかの目覚めた気配を察して保健室の谷本先生が声をかけてきた。
「橋本さん、目が覚めたの?大丈夫かな?」
「はい」さやかは小さな声で答えた。
「教室に戻れそう?」と先生に聞かれた。
体調はすっかり良くなっているので、授業に支障はなさそうだ。でも、教室には戻りたくなかった。どう答えたらいいか悩んでいると、
「お家の人に迎えに来てもらおうか?」と先生がやさしく聞いてくれた。
ーなんであんな意地悪な事を言ってしまったんだろう。
お母さんが迎えに来るまでの間、白いカーテンを見上げながら考えていた。
3時間目が始まる前の中休みの時間、さやかはとても機嫌が悪かった。クラスの男の子の騒々しさに腹が立ったし、女の子たちのにぎやかな話し声も鼻についた。そんな時、仲良しのかながさやかに話しかけてきた。
「見て、昨日お母さんに買ってもらったんだ」
そう言って髪飾りを見せてくれた。それは、さやかとかなが一緒にお買い物に行った時に2人でかわいいと言い合っていた髪飾りだった。さやかはなんだか羨ましい気持ちと悔しい気持ちがぐちゃぐちゃになって「似合ってない」と言ってしまったのだ。
お母さんが迎えに来て、一緒に家に帰った。
「体調良さそうじゃない?」家に帰るとお母さんに言われた。
「うん、お家に帰ったらなんか元気になった」
お母さんはくすっと笑ってから言った。
「お母さんもお仕事早退しちゃったし、スイーツでも食べに行こうか」
電車で5駅くらい離れたケーキ屋にいく。
私はいちごのパフェ、お母さんはチーズケーキを選んだ。
大好きな苺が沢山のっている。見た目もキレイ。
パフェは美味しいのに、お母さんとのお出かけで嬉しいのに、なんだかとても悲しくなった。心の底の方がずんと重たい。おばあちゃんの家で見たお漬物の上にのっている石が私の体に入ってきたみたい。
パフェを食べ終えて、かなに意地悪を言った事もズル休みをした事も全部お母さんに話した。
お母さんは黙って全部の話を聞いてくれた。
心の中の重石が少し軽くなった気がした。
次の日、かなちゃんが声をかけてきた。
「体調、大丈夫?」
私は昨日事を素直に謝った。
「昨日、意地悪言ってごめんね。髪飾り、とても似合っていたよ」
心の重石がとれた。
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お題:カーテン
いつも自信に満ち溢れている
彼の涙の理由がわからなかった。
いつも真っ直ぐ前を向いている
彼女の涙の理由がわからなかった。
いつも人の輪の中でみんなを笑わせている
あいつの涙の理由がわからなかった。
いつも笑顔でみんなに好かれている
あの子の涙の理由がわからなかった。
どのような人に見られているのかわからないけど
私の涙の理由もきっとわかってもらえない。
だけど…だからこそ、泣くのを我慢しなくていい。
自分の気持ちに蓋をしなくていい。
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お題:涙の理由
「楽しみを待つ時間」
月曜日から金曜日までだいたい同じような日々を送っている。
たまに休みをとって出掛けたり、友人に会うこともある。
もちろん楽しみだしワクワクする。でも、スケジュールを調整したり準備したり、多少の煩わしさもなくはない。
「書く習慣」をはじめて、お題が追加される19時が楽しみになった。お題を見て何を書こうか考える時間が楽しい。いざ書こうとして思うように言葉が出ないことも、納得のいかない文章のまま投稿してしまうこともある。それでもちょっとした達成感を味わうことができる。
誰に評価されることもなく、携帯ひとつで完結する。そんな手軽さも日々の生活にあっている。
「書く習慣」を私の子どももやっている。その投稿を読むのももうひとつの楽しみだ。
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お題:ココロオドル
「渡り鳥の旅」
「今夜、何としても山を越えるぞ」
数時間におよぶ参謀会議の末、リーダーのタングは重々しく言葉を吐き出した。
これまでの長旅で仲間たちの疲労は積もりに積もっていた。
しかし、明日からは天候が崩れそうだ。今日を逃すと数日間
の待機を余儀なくさせる。冬の寒さがくる前に目的の地に辿り着くためには今日しかない。
伝達係のムファが仲間たちを集めて宣言した。
「今夜、山越えを実行する。それまでゆっくり休み体力を回復してくれ」
仲間たちにどよめきの声が湧き上がる。
今年産まれたばかりの3羽の兄弟たちが口々に話し出す。
「やった〜、早く行きたい!今日のためにいっぱい飛ぶ練習をしてきたんだ」
「一番高く飛べるのは僕だよ」
「あんなに高く飛べるかな。こわいよ。僕一人だけ置いていかれたらどうしよう」
興奮している2人の兄弟を後目に、産まれた時から体が小さい末っ子のミカキが泣き言を言う。
母親は3羽を集めて話して聞かせる。
「私たちのリーダーは優秀なの。リーダーの指示に従って群れから離れることがなければ大丈夫よ。絶対に群れから離れてはだめよ。さあ、出発まで休みましょう」
タングも仲間の輪に入り休もうとした。しかし、気分が高揚して目を閉じても眠ることができない。目の前にそびえ立つ猛々しい山々を見上げる。
言葉通り今夜が『山場』だ。みんなの体力を考えると短時間で一気に渡り切らなければならない。優秀な参謀たちと隊列も段取りも綿密に計画をたてた。「大丈夫だ」タングは自分に言い聞かせた。
日が沈みあたりが暗くなった。風もなく静かな夜だ。
まずタングが飛び立つ。それを合図に仲間たちが後に続く。
壁のような山々がどんどん近づいてくる。山越えがはじまった。
高度が増していく。突然横から強い風が吹く。風に煽られ体勢を崩すものがいる。「出来るだけ山肌に沿って飛ぶんだ!決して群れから離れるな!」
随分飛んできた。仲間たちの疲労もピークに達しているはずだ。だが、再び飛び立つには何倍もの体力が必要だ。飛び続けるしかない。「がんばれ!大丈夫、飛び続けるんだ!」声を張り上げ仲間たちを励ます。
目の前から壁がなくなり、真っ暗な空間が広がる。ついに山頂を越えた。必死で飛んできたミカキも周りを見渡す。星空の中にいるようだ。はじめての眺めに感嘆の声をあげる。今までに見たことのない景色だ。
タングは仲間たちの顔を見ながら言う。
「私たちほど高く飛べるものはいない。みんなよく頑張った。降りも気を引き締めて飛ぼう」
高さ8000メートル、時間にして8時間。
全員無事に山を越えることができた。
疲弊した体を休め、食事を摂る。
誰一人脱落することなく山を越えることができた。
なんとかリーダーの責務を果たせたとタングは安堵する。
これからまだ数千㎞の旅は続く。ただ今だけは何も考えず深い眠りにつきたい。
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お題:束の間の休息
インドガンは繁殖地のモンゴルやチベットから越冬地のインドへ渡りをします。その際、8000mのヒマラヤ山脈を越えて行きます。世界で最も高く飛ぶ鳥と言われています。