少し寒くなった頃、秋(あき)は休日に好きな作家さんの新作を買いに来ていた。
(よかったー...買えた)
そのまま他の作家さんの本を見て歩いていると、ガラス越しに拓也(たくや)の歩く姿を見つけた。
(あ、拓也...)
じっと見ていると、彼と目があった。手を上げる彼に軽く手を振り返す。
拓也は駆け足で本屋へと向かって来た。
「やほ、秋」
「偶然だね」
「なんか買ったの?」
「新作だよ」
へー、とあまりピンと来ていないような顔をする。
「...俺もなんか読もうかな」
「それなら、これとかいいんじゃない?」
「お、それ面白そう」
拓也は秋に薦められた本を手に取る。
「今度読んだら感想言っていい?」
「うん。あ、でも私も読みたいから読んでからでもいいかな...?」
「全然待つ」
「良かった」
秋は拓也と会話しながら、この間の葉瀬(ようせ)との会話を思い出す。
『秋にその気が無いなら、ベタベタしてもいいよね』
(............)
秋は葉瀬の言葉を思い出して、拓也の裾を摘まんだ。
「秋?」
「......これから何か予定ある?無かったら一緒にカフェとか行かない?」
拓也は目を見開いてキラキラさせる。
「え、うん。行く」
「...じゃあ先に本買ってきていいかな?」
「俺も行く」
秋は拓也がよい返事をしてくれたことに嬉しくなって、少しだけ安心した。
お題 「秋恋」
出演 秋 拓也 葉瀬
「ここが真人(まひと)の部屋か~初めて来た!」
そう言ってまじまじと眺めるのは、高校の時親友だった陽太(ひなた)。
「ん?これもしかして、実家から持ってきたタンス?」
「あぁ、うん。まぁなんでも買えるってわけじゃないし」
「じゃあ俺が内緒で貼ったプリキ◯アシールとか未だについてるのかなー」
「は?どこ」
「陽太クン忘れちゃった❗」
「その顔絶対覚えてるだろ」
言えよ、と詰め寄る真人を余所にカレンダーに近寄る。
「カレンダー発見!黒ペン借りるね~」
「は?ちょ、シールは」
陽太は真人の机の引き出しを開け、黒ペンを取る。そのキャップを外すと、今日に『陽太クンとの再開❕』と枠いっぱいに書き込んだ。
「何してんだよ」
「えー!真人と俺が再び会えた記念に、書き記しておこうと思っただけだよー!」
「嘘つけ、お前次の日にも何か書こうとしただろ」
「それは明日の予定だよ!だって俺一年しか居られないんだよ!!大事な一年なんだよー!」
ぴょんぴょんと跳ねるが、落下したときの振動や音がまるでしない。
「一年って短いんだよ!だから早く真人との計画立ててるんだよ!」
そう言うと陽太は再びカレンダーに向き直る。
(...大事な一年なら、家族とか地元の友達とか、他の人達のところに行くべきだろ)
はぁ、と軽く息を吐く。
「...なんで俺のところに来たんだ?」
「え?だって真人ともっと遊びたいから。もっかいアイス、二人で食べようよ!」
曇り無き眼には、光にやられる真人が映っている。
「そんなことでいいのかよ......仕方ないな」
「へへっ、いいよいいよ真人クン❗陽太クンわくわく😍してきちゃっタ😁✨一緒にアイス🍨食べようネ❗」
「なんかやだな」
「ひどいヨ😭💔真人クン❗」
真人は陽太の隣に並び、カレンダーを見る。
「......なぁ陽太、一つ聞いていい?」
「ん?何?」
「お前なんで俺の黒ペンの場所知ってんの?初めてきたんだよな?」
「あ、やべ」
「お前絶対初めてじゃないだろ!!」
お題 「大事にしたい」
出演 真人 陽太
「若いっていいね...」
葉瀬(ようせ)ちゃんとの帰り道、私は二十代になったばかりであろう大学生男女が仲良さそうに歩いているのを目にした。
「秋(あき)も若くなーい?」
「いやいや、もう三十だし。若くないよ」
「そう?もしそうだとしても、秋は若いっしょ」
とサラサラと口にするのは、彼女がまだ二十代になったばかりだからなのかな。
「若く見えても、もうあんな風に恋愛できないかな」
「......秋って拓也(たくや)と付き合ってるんじゃないの?」
突然彼女はそう尋ねた。
「えっと...付き合ってないよ?」
「え?嘘でしょ?」
彼女は有り得ないと言わんばかりに目を見開く。そんなに驚くことだったのかな?
「えっと、じゃあ拓也のことが好きとかは...」
「ふふっ、なにそれ?」
私が少し面白くて笑うと、葉瀬は何か考え始める。
「...秋大丈夫?拓也取られるよ」
「取られるって、何が?」
そう言うと何故か唸り声を上げる葉瀬ちゃん。
「...あ!秋、拓也と遊びに行けなくなっていいの!?」
「なんで?」
「だって拓也に彼女できたら気軽に遊びに行けないでしょ!」
「あぁ、そっかぁ」
「そっか!?もっとなんかあるよね!?」
「しょうがないよ、彼も大人だし。そういう日が来るのは自然なことなんだから」
葉瀬ちゃんは眉間にシワを寄せたまま、萎びた顔をしている。そんな顔してるとシワ増えちゃうよ。
「葉瀬ちゃん何か悩んでるの?相談なら...」
「私、拓也が好きだよ」
「......えっと何て?」
「秋にその気が無いなら、ベタベタしてもいいよね。ね?」
「う、うん。いいけど...?」
「ふーん、後悔しないでね?」
じゃあ私ここだから、と手を振って後ろも見ずに駅に入っていった。
「.........いい、よね...?」
私は何故か、今更になって不安になった。
お題 「本気の恋」
出演 秋 葉瀬 拓也
「二人だけで飲みたいとか珍しいね」
拓也(たくや)は着ていたコートを脱ぎ、畳んで横に置く。
「まぁ...ちょっとね」
「ふーん?」
俺は拓也の探る目から逃れるために、メニュー表で顔を隠す。長い付き合いの友にはこうでもしないと心の内を知られてしまうだから。
「んじゃ、どれ頼む?」
俺はメニュー表を見たまま頼むものを彼に伝える。タッチパネルで注文し、しばらくすると頼んだものがやってきた。
その後は各々料理や飲み物をちまちま飲んで、他愛もない話をしていた。
「...で、話したいことあるんじゃないの?」
「んぐ......げほっげほっ...!...は、なに」
「玲人(れいと)が二人で話したいとか相談しかないでしょ」
「.........」
「で、何?」
頬杖をついて、こちらを見る。
「......最近さ、変なんだよね」
「変?」
「なんか、達を見てると、キラキラしてたり、心臓が...」
「え、心臓?」
「心臓が......ばく、って...!」
「......あー」
「え、何!?」
拓也はにやにやと俺の方を見る。
「んー、これは自分で気づかないとな~」
「え、は!?ちょ!」
「じゃあ~ヒントね、ヒント」
「ヒント?」
拓也は目を細めて少し考える。
「えーと、その人に対してだけ!だよね?」
「う、うん」
「その人が他の人と楽しそうにしてたら?」
「え?えー...別にいいんじゃない?」
「そっかぁ...!じゃあその人のことどう思ってる?」
「え、どう?どう...って......」
俺はぼんやり考える。
答えがでない。
でないわけじゃない、でもでない。
「...えっと......」
「...本当はさ」
俺がぐるぐる考えていると、拓也は突然話す。
「本当は答え教えたいけど、まだちょっと早そうだから内緒」
なんだそれ、と軽く笑って俺はぬるくなったウーロン茶を飲んだ。
お題 「胸の鼓動」
出演 玲人 拓也
どうも皆さんこんにちは、玲人(れいと)です。
至急教えて欲しいです。
友達が輝いて見えるのですが、何故でしょうか。
遡ること数時間前。今日はいつもの四人で集まってゲームをする約束をしていた。
いつもと変わらないと思ってた。
「わ、今回私一位だ!...玲人大丈夫?頭痛いの?」
そう言って彼女は俺の顔を覗き込んでくる。
「大丈夫...!その、ちょっとね...!」
頭を抱えていたから心配されてしまったのだろう。申し訳ない。
いつからだっただろう。彼女の周りだけキラキラしていて、目を向けるのが難しくなっていた。
(なんで...)
今、まだ彼女しか来ていない。二人とも早く来て。
「えっと、なんか悩んでる?話聞こうか?」
「だ、大丈夫!!大丈夫だよ!」
「そう...?」
そう言うと画面に顔を戻す。
(ああぁ......なんか後ろに花も見えるよ...もうキラキラしないで...!!)
「玲人」
うぅ、と心の中で唸っていると名前を呼ばれる。そろ、とそちらを向くと頭に、ぽすんと何か乗せられた。
「......?」
それはゆっくり頭を左右する。
「...えっと」
「大丈夫」
彼女はにこっと笑う。
「玲人は頑張ってるよ。何で悩んでるかわかんないけど、玲人は頑張ってる。もしよかったら、私にも相談してほしいな。大切な友達だからね」
ふわりと笑う彼女からキラキラと光が溢れている。
バクッ、と胸から変な音がした。
「......うぐ」
「え、玲人!?」
俺は眩しくて思わず目を瞑って、そのまま胸を押さえて横に転がった。
頭の上で彼女の心配している声が聞こえる。
最悪です。輝いて見えるかつ、心臓が速いまま収まりません。
誰かたすけて。
お題 「きらめき」
出演 玲人 葉瀬