「うっ.........わ」
目が覚めると彼女の顔が目の前にあった。
パッチリと目は閉じられ、ピクリとも動かない。
「............」
昨夜は俺が寝るまで帰ってこなかったが、いつの間に帰ってきたのだろう。
別に浮気じゃないのは知ってる。この時期になるといつも零時を回って帰ってくることが多い。メイクをして隠しているが、目の下に隈が出来てる事も知ってる。
本人はバレてないつもりらしい。
「.........よいしょっ」
俺は起き上がって彼女をベッドの中央に寄せる。
彼女が起き上がる前にでも朝食を作っておいてやろう。
お題 「目が覚めると」
出演 玲人 葉瀬
ふわふわの茶髪。
パッチリ二重に長い睫毛。
少し焼けた薄小麦色の肌。
俺を呼ぶあの立つ声。
「真人(まひと)~」
線路の向かい側で、入道雲を背に立っている。
ゆらり、ゆらりと上で振られる右手。
俺はゆったり、ゆったり歩く。
「真人~」
暑い。
ジィィィ、ジィィィと蝉が鳴く。
顔からポタポタと汗が垂れる。
シャツが背中にくっついて気持ち悪い。
「ま ひ と~」
逆光で顔がよく見えない。
でも笑ってる。
「...ひな」
た。
俺がそう言おうとした時、ゴウンッ!と目の前に電車が来る。俺は驚いて思わず後ろによろける。そんな俺を気にもせず、ガダタンッ、ガダタンッ、ガダタンッ、と走り抜けていった。
その勢いに、ぺたん、と思わず尻餅をつく。
.........ンカンカンカンカンカンカン
近くで踏み切りの音がする。電車が走り抜けるとその音は止み、スッと踏み切りは上がる。
その先に、彼の姿は無かった。
(...あぁ、そうだった。彼は、もう居ないんだった)
俺は立ち上がって砂を払い、程なくして帰路へとついたのだった。
お題「友だちの思い出」
出演 真人 陽太
俺は二人の話をぼんやりと隣で聞いていた。
思い返すと、この二人の事を深く考えた機会は無かったな、と。
窓の外には青空が広がっている。夏の空だ。
(...懐かしいな、この時代は確か他にも...)
思い出に浸っていると、目の前に、はらり、と少し太めの赤い糸が落ちてきた。
(.........引けと?)
俺はその糸を、くんっ、と引く。
「......何も起きね」
すると突然隣の座席の天井がパカッ、と開き、ガラガラと何か落ちてきた。
「ええぇぇぇ、聞いてない聞いてない」
俺は落ちてきた物を見る。
「......?メロンパンと、ドーナツと、ナッツと......え、横長のハムスター...?」
俺は困惑した。なんでこんな物が落ちてきたのか。
「食べ物か...?いやなんで」
「いってぇぇ!!!」
「喋ったッ!!?」
むくり、とメロンパン?が起き上がると一言叫んだ。
「アニキ~大丈夫っすか~?」
「あぁ...石だから大丈夫...」
(あの横長ハムスターは石なのかよ)
俺は心の中で突っ込んだ。
「二人は大丈夫...?」
「うん!いや~ビックリしたよ~」
「僕もちょっとだけ...」
ドーナツ?とナッツ?が起き上がってメロンパン?と横長ハムスター(石)に話していた。
(...あ、うわ、懐かしい...!)
俺は四体の姿を見て、昔を思い出した。
(...あれは、俺が初めて考えた...)
そうか、四人もこの列車に乗ってたんだな。
七月が始まる。
じゃあこの四人の事を、今月は書いてみようかな。
お題 「赤い糸」
暑い。
今日はその一言に尽きる。
店内は涼しいけど一歩外に出たら灼熱の暑さ。
本当、なんでこんなに暑いの。
「氷華(ひょうか)、お疲れ様。麦茶いれたから飲む?」
「飲む...」
私は店先に打ち水を撒いていた手を止め、バケツとホースを片付けた。
「ありがとう氷華...ごめんね、暑いのに」
「大丈夫...高校の時の部活に比べたら全然だよ...」
「そ、そっか...」
私は手をパタパタとさせ、麦茶の入った硝子コップを手に取る。
ぐびっ、と一気に煽った。
ごくんっ、と喉を伝う冷たさが気持ちいい。
「...っぷはぁ~!美味しい!!」
「あ、あとこれも」
そう言ってお姉ちゃんは私の手に飴を握らせる。
「塩分補給も忘れずにね」
そう笑ってお姉ちゃんは裏へと回っていった。
私はその飴を口に放り、店内の作業へと取りかかった。
お題 「夏」
出演 氷華 言葉
今日、優しそうな男性が勿忘草を買っていった。
花束として包んでいる時勿忘草から、どこいくのー?と声が聞こえた。
正確には私の妄想の中の声なんだけどね。
私はその声にそっと、彼の幸せの為に彼の元へ行くんだよ、と言った。
こわいよー、そんな声も聞こえた。
買われていった花の運命を私は知らない。
どうか彼やその幸せの元で、安らかに過ごすことを願っている。
お題 「ここではないどこか」
出演 言葉 玲人