ふわふわの茶髪。
パッチリ二重に長い睫毛。
少し焼けた薄小麦色の肌。
俺を呼ぶあの立つ声。
「真人(まひと)~」
線路の向かい側で、入道雲を背に立っている。
ゆらり、ゆらりと上で振られる右手。
俺はゆったり、ゆったり歩く。
「真人~」
暑い。
ジィィィ、ジィィィと蝉が鳴く。
顔からポタポタと汗が垂れる。
シャツが背中にくっついて気持ち悪い。
「ま ひ と~」
逆光で顔がよく見えない。
でも笑ってる。
「...ひな」
た。
俺がそう言おうとした時、ゴウンッ!と目の前に電車が来る。俺は驚いて思わず後ろによろける。そんな俺を気にもせず、ガダタンッ、ガダタンッ、ガダタンッ、と走り抜けていった。
その勢いに、ぺたん、と思わず尻餅をつく。
.........ンカンカンカンカンカンカン
近くで踏み切りの音がする。電車が走り抜けるとその音は止み、スッと踏み切りは上がる。
その先に、彼の姿は無かった。
(...あぁ、そうだった。彼は、もう居ないんだった)
俺は立ち上がって砂を払い、程なくして帰路へとついたのだった。
お題「友だちの思い出」
出演 真人 陽太
俺は二人の話をぼんやりと隣で聞いていた。
思い返すと、この二人の事を深く考えた機会は無かったな、と。
窓の外には青空が広がっている。夏の空だ。
(...懐かしいな、この時代は確か他にも...)
思い出に浸っていると、目の前に、はらり、と少し太めの赤い糸が落ちてきた。
(.........引けと?)
俺はその糸を、くんっ、と引く。
「......何も起きね」
すると突然隣の座席の天井がパカッ、と開き、ガラガラと何か落ちてきた。
「ええぇぇぇ、聞いてない聞いてない」
俺は落ちてきた物を見る。
「......?メロンパンと、ドーナツと、ナッツと......え、横長のハムスター...?」
俺は困惑した。なんでこんな物が落ちてきたのか。
「食べ物か...?いやなんで」
「いってぇぇ!!!」
「喋ったッ!!?」
むくり、とメロンパン?が起き上がると一言叫んだ。
「アニキ~大丈夫っすか~?」
「あぁ...石だから大丈夫...」
(あの横長ハムスターは石なのかよ)
俺は心の中で突っ込んだ。
「二人は大丈夫...?」
「うん!いや~ビックリしたよ~」
「僕もちょっとだけ...」
ドーナツ?とナッツ?が起き上がってメロンパン?と横長ハムスター(石)に話していた。
(...あ、うわ、懐かしい...!)
俺は四体の姿を見て、昔を思い出した。
(...あれは、俺が初めて考えた...)
そうか、四人もこの列車に乗ってたんだな。
七月が始まる。
じゃあこの四人の事を、今月は書いてみようかな。
お題 「赤い糸」
暑い。
今日はその一言に尽きる。
店内は涼しいけど一歩外に出たら灼熱の暑さ。
本当、なんでこんなに暑いの。
「氷華(ひょうか)、お疲れ様。麦茶いれたから飲む?」
「飲む...」
私は店先に打ち水を撒いていた手を止め、バケツとホースを片付けた。
「ありがとう氷華...ごめんね、暑いのに」
「大丈夫...高校の時の部活に比べたら全然だよ...」
「そ、そっか...」
私は手をパタパタとさせ、麦茶の入った硝子コップを手に取る。
ぐびっ、と一気に煽った。
ごくんっ、と喉を伝う冷たさが気持ちいい。
「...っぷはぁ~!美味しい!!」
「あ、あとこれも」
そう言ってお姉ちゃんは私の手に飴を握らせる。
「塩分補給も忘れずにね」
そう笑ってお姉ちゃんは裏へと回っていった。
私はその飴を口に放り、店内の作業へと取りかかった。
お題 「夏」
出演 氷華 言葉
今日、優しそうな男性が勿忘草を買っていった。
花束として包んでいる時勿忘草から、どこいくのー?と声が聞こえた。
正確には私の妄想の中の声なんだけどね。
私はその声にそっと、彼の幸せの為に彼の元へ行くんだよ、と言った。
こわいよー、そんな声も聞こえた。
買われていった花の運命を私は知らない。
どうか彼やその幸せの元で、安らかに過ごすことを願っている。
お題 「ここではないどこか」
出演 言葉 玲人
「...はっ!やばい景色見てて何もしてない!」
我に返って辺りを見回す。
そう。俺はあの後、他の車両を見に行こうとしていた。
が、『楽園』での景色があまりにも綺麗だったせいで立ち上がることを忘れていた。
(やってしまった...)
頭を抱えて、ふと前の席を見ると、やはり二人は止まっていた。
(......まるでゼンマイが付いた人形だな)
なんて事を思う。
俺の隣の席の二人も動く気配が微塵もない。
(俺だけが取り残されたみたい...)
俺は居心地が良いはずだった席を立ち、通路へと出る。
前にも後ろにも車両があるが、先に後ろへ行こう。
俺は後ろの車両へ繋がる扉に手をかける。
『次は~.........~......~車両の方は___』
流れてくるアナウンスを聞きながら、俺は扉を開け、後ろへと進んだ。
「...え?」
まずは第一声。
「......どういうこと...?」
次に第二声。
(なんで)
そして思考。
「なんで、白いんだ...?」
そう。後ろの車両は壁も、椅子も、天井も真っ白だった。
唯一、窓の外は夕焼けだった事が救いだ。
「ねぇお姉ちゃん、なんでここってこんなに白いの?」
声のする方に歩み寄ると、そこには女性が二人座っていた。
「私達のここはちょっとだけ鮮やかだけど、なんで他は真っ白なの?」
セミロングヘアーの女性がロングヘアーの女性へと質問する。
「それは俺も知りたい。というかここはどこですか?」
俺は二人に話しかける。
「うーん、たぶんあの人はまだ考えてなかったんじゃないかな」
「考えてない?」
「そう。だからここは真っ白なんだよ」
「あれ?俺の質問は無s」
「ふーん、変なの」
「無視か」
俺は仕方なく二人の座っている向かいの席へと移る。
「でもいつか、ここも鮮やかになるはずだよ」
ロングヘアーの女性がそう言って穏やかに笑う。
六月が始まる。
そういえば、彼女達に目を向ける機会はあまり無かったな、と気づいた。
お題 「無垢」