「...はっ!やばい景色見てて何もしてない!」
我に返って辺りを見回す。
そう。俺はあの後、他の車両を見に行こうとしていた。
が、『楽園』での景色があまりにも綺麗だったせいで立ち上がることを忘れていた。
(やってしまった...)
頭を抱えて、ふと前の席を見ると、やはり二人は止まっていた。
(......まるでゼンマイが付いた人形だな)
なんて事を思う。
俺の隣の席の二人も動く気配が微塵もない。
(俺だけが取り残されたみたい...)
俺は居心地が良いはずだった席を立ち、通路へと出る。
前にも後ろにも車両があるが、先に後ろへ行こう。
俺は後ろの車両へ繋がる扉に手をかける。
『次は~.........~......~車両の方は___』
流れてくるアナウンスを聞きながら、俺は扉を開け、後ろへと進んだ。
「...え?」
まずは第一声。
「......どういうこと...?」
次に第二声。
(なんで)
そして思考。
「なんで、白いんだ...?」
そう。後ろの車両は壁も、椅子も、天井も真っ白だった。
唯一、窓の外は夕焼けだった事が救いだ。
「ねぇお姉ちゃん、なんでここってこんなに白いの?」
声のする方に歩み寄ると、そこには女性が二人座っていた。
「私達のここはちょっとだけ鮮やかだけど、なんで他は真っ白なの?」
セミロングヘアーの女性がロングヘアーの女性へと質問する。
「それは俺も知りたい。というかここはどこですか?」
俺は二人に話しかける。
「うーん、たぶんあの人はまだ考えてなかったんじゃないかな」
「考えてない?」
「そう。だからここは真っ白なんだよ」
「あれ?俺の質問は無s」
「ふーん、変なの」
「無視か」
俺は仕方なく二人の座っている向かいの席へと移る。
「でもいつか、ここも鮮やかになるはずだよ」
ロングヘアーの女性がそう言って穏やかに笑う。
六月が始まる。
そういえば、彼女達に目を向ける機会はあまり無かったな、と気づいた。
お題 「無垢」
6/1/2024, 8:58:57 AM