彼は素直で嘘がつけないらしい。
まぁ目を見てると分かる。透明で、キラキラ輝いていて......実(みのる)と違って誠実で一途だから。
だから余計に俺じゃない方がいいって考える。
君はまだ、これから色んな人と出会う。なのにこんな化粧をして元カレを唸らせようとしてる奴に構ってどうするんだ。どう考えても君は俺とじゃない。そう思ってるのに。
「...あのさ、海斗(かいと)」
「ん、何ですか?」
彼は俺に呼ばれて振り返る。
そう、その目だ。ただ愛してますと言わんばかりの優しい目。俺はその目に怖気づいて何も言えない。言いたくないだけなのかもしれない。
「......なんでもないよ」
「?そうですか...」
彼は再び花を見始めた。
君は俺に一目惚れしたと言っていた。じゃあ俺から容姿を取ったら、君は俺を愛してくれるのか?顔がぐちゃぐちゃになっても?真っ黒な怪物になっても?
聞けない。
聞きたくとも怖くて聞けない。その理由はたった1つ。
今ある幸せを手ばなすのが怖いから。
ただそれだけ。
お題 「君の目を見つめると」
出演 雪 海斗
「吹雪(ふふぎ)、何をしているのですか」
「天体観測です!」
吹雪もとい機体008号は手に平たい、円盤の様なものを空にかざしていた。
「これ、昔雪から貰ったんです。僕達のいる星の距離を計算して、印を付けたんです」
どうですか?と吹雪は自信満々で自分に見せてきた。
「今、地球から右近くに見えるのでここは春なんです。夏になったら左近くに見えるんですよ。秋はまた右近くに見えるんです。冬もまた左なんですよ」
自分には何故このような事をしているのか理解出来ない。地球から見える星の位置を把握して何になるのだと言うのだ。
「ここの星から見える星の位置を記録した方が有意義だと思われます」
そう言うと吹雪は微かに笑う。
「確かにそうかもしれません。でも僕は有意義よりも娯楽を取る派なんです」
なんて返すと再びその円盤を見始める。
自分は理解出来ないまま、その地をあとにした。
お題 「星空の下で」
出演 夜 吹雪
私は人より意思が弱い。それは自分でもわかってる。あぁ、意思が弱いっていうのは発することが出来ないんじゃなくて、元々頭で考えて無いってこと。
皆には明確に有るものが私には作り出せないって、ただそれだけ。
「____と、葉瀬(ようせ)ちゃんはどっちがいい?」
「あっち」
「えぇ?お母さんはこっちの方がいいと思うんだけどなぁ。でも決めるのは葉瀬ちゃんだからねぇ......本当にあっち?」
「......どっちでもいい」
「じゃあ...こっちにするね。いい?」
「うん、いいよ。それで」
いつもこんな感じだよ。お母さんは私が選ぶと大体嫌な顔をするから、最終的に任せてる。
本当どうでもいいから、どうでもいいから適当なんだ。
修学旅行の行き先だって、私が行きたかった所は1つも入ってなかった。それも特に気にしなかった。何か言うと後で面倒だし。
だから修学旅行の思い入れなんて特に無い。
それからも、なんとなくそれでいいで生きて来られた。
誰にも言ってなかったし、ずっと気にしてなかった。
けど。
「え、これ確か葉瀬苦手じゃなかった?」
って言われた。
「え?」
「そうなの?葉瀬ちゃん言ってくれれば良かったのに」
「そうだよ。無理する必要ないし」
「...い、やいや!別にそんなでもないし、チャレンジ~ぐらいだよ!それに皆これ食べたいでしょ?それでいいから。私は大丈夫だよ」
昔、お母さんに『葉瀬は好き嫌いが多いから、多少嫌いでもそのお店に行くんだよ。じゃないとその友達に迷惑かけるよ』と言われていた。だから弁解したのだが。
「折角なら皆が食べたいもの食べたいじゃん。無理しないでよ」
と断ち切られてしまった。
「え、えー...」
「葉瀬は食べたいものとかないの?なんでもいいんだよ」
「いや特に...皆が好きなもの食べよ、私もそれでいいよ」
「......俺は」
「?」
「俺は、葉瀬の『それがいい』って言葉が聞きたいな」
なんか少し悲しそうなのは、私が何も言わないから?
(そんなこと言われたってなぁ...)
「...た、拓也(たくや)これって...!!」
「うん......玲人...やっぱりだったよね...!?」
拓也と秋(あき)は顔を見合わせて何やら確かめあっている。なんか盛り上がってるけど何の話だろう。
「玲人もやっとか~」
「ちょ、違うから!2人共!!」
なんか玲人も混じってる。
これは私が言わなきゃ終わらないやつなのかな。
(確かに食べたいものはあるけど、言っていいのかなぁ...)
ちら、と確かめるように玲人を見るとこちらに気づいたのか自信満々に笑ってみせた。
「......うーん、じゃあ......これ、かな」
そうやって指を指すと、玲人は何故か嬉しそうに笑った。
「じゃあここにしよう!2人もいいよね?」
「しょうがないな~玲人は」
「は?なんで俺?」
「そうだね、これはほぼ玲人のお願いだね」
「ちょ、も、そういうのいいから!」
なんだかよく分からないけど、私が指差した店で良かったらしい。
「じゃあ行こうよ」
なんで玲人が私よりも嬉しそうなのか、この時はよく分かってなかった。
お題 「それでいい」
出演 葉瀬 玲人 拓也 秋
今日はエイプリルフール、ということで。
「玲人(れいと)実は私、今まで彼氏50人くらいいたことあるんだ~」
玲人に嘘をついてみたのだ。
私に関して、玲人の驚いた顔はあんまり見たことがない。だからちょっとだけ、ちょっとだけ気になったのだ。
「...ふーん」
「学生時代、モテにモテまくってコロコロ彼氏変わってたんだ~凄いでしょ」
こんな分かりやすい嘘はないでしょ?
「......まぁ俺もいたし、お互い様ってとこかな」
「え?」
「ん?俺だって学生時代、彼女の1人や2人いたよ」
「は、え、ちょ、聞いてない」
「だって聞かれなかったし」
私は隣に座っている玲人に問い詰めた。なんでも高校生の時に1人、社会人になってから1人付き合っていたらしい。どちらとも別れたが。
「私...玲人の初彼女じゃないの...!?」
「いや、この年で初彼女とかまずいし」
「わ、私は玲人が初彼氏なのにっ...!」
「............あー...」
「え!?何!?」
玲人は何かを察すると「なんでもないよ」と苦笑いした。
「うぅ......玲人の初彼女になりたかった...」
「なんでだよ...」
「初めてって特別感あるじゃん!!むぅ...!!いいもん!最後の彼女になるんだから!」
そう言うと玲人は「?」を浮かべた。
「玲人の彼女は私で最後。玲人の隣に居るのはずっとこれからも私で、結婚しても、子供が生まれても、ずっと私。死んでも離さないから」
「こっわ......てか重...」
「玲人だって初彼氏ってわかって嬉しかったくせに!顔に出てるぞ!!?あと玲人の方が重いだろ!!」
「重くないよ?...ただ」
「ただ?」
「ただこんなに可愛い葉瀬(ようせ)が、誰にも触れられてなくて良かったなって。触れるのは一生俺だけでいいし」
そう言って玲人は葉瀬の右頬に触れ、左の頬にキスをした。
「なんなら他の人と同じ空間にいて欲しくないよね。空気すら触れられるの嫌だし」
「.........それを世間では重いって言うんだよ」
「そう?俺なりの愛情表現なんだけどなぁ」
「...私には伝わってるからいいよ。でも限度は考えてよ?」
「うん。葉瀬は優しいね」
「玲人だけにだけどね」
玲人は私の頭を優しく撫でる。
なんとなく部屋全体が甘い雰囲気になった気がした。
あれ?私、玲人に嘘ついて驚かせる予定だったんだけど。
お題 「エイプリルフール」
出演 葉瀬 玲人
しばらく電車に揺られていると、黒髪ショートヘアと茶髪セミロングの男性二人組が歩いてきた。
「わぁ...!綺麗~!」
「うわ......」
どちらとも違うタイプのイケメンで少しだけ黒髪の方が背が高い。黒髪はどちらかというと正統派で、茶髪の方はお姉さん系というか、なんというか。
「凄いな......あ、どこに座る?」
「......んー、私ここがいいかな?」
「じゃあそこにしよう」
「えっ。うん......ありがと」
前言撤回。黒髪の方は女性だった。
二人組は俺と通路を挟んで向かいの席に座った。
「見て!ピンクの空だよ!」
「本当だ......あ、青い鳥がいる」
「えっ、どこどこ」
「ほらあそこ」
「え?どこ?」
「あそこ!」
二人は頭を近づけて窓の外を見る。指を差して茶髪の男性は黒髪の女性に教えていた。
なんと微笑ましい光景だろう。まるで小さな子供たちを見ているみたいだ。
「あ、見っけ!青い鳥だ~!」
「凄いよね、俺初めて見たよ」
「私も!......あのさ、隣行っていい?」
おっと?これは黒髪の方攻めたな。
「え、うん。いい、よ...?」
おい茶髪、なんで疑問形なんだ。
「やった。ありがと~」
「...見にくくない?俺屈もうか?」
「んーん、大丈夫!こうするから」
そう言って黒髪は茶髪を抱き締めた、のか?
「ちょ...!いくらなんでも、それは恥ずかしいって...!」
「いーじゃん、誰も居ないんだし」
もしや、これは俺が見えてないということか。
確かに「俺が見えている」と設定してもいいが、このままにしておこう。なんなら薄く空間で仕切っていることにしよう。そっちの方が彼らの為だ。
「駄目?」
「...まぁそれで見えるんだったら、しょうがないよね」
許すんかい茶髪!!!ツンデレかよ!!と俺は心の中でツッコミを入れた。
「やった~」
「...落とさないでね」
「大丈夫、落ちるときは一緒だよ」
「落とすなって言ったよね?」
黒髪は嬉しそうにしている。なんだかんだで茶髪も嫌がってないし、寧ろ楽しんでる。
なんだか見てるこっちも嬉しくなって、心の中で『お幸せに』と呟いた。
四月が始まる。
次は彼らの事を書こうかな。
お題 「幸せに」