葉瀬(ようせ)と玲人(れいと)は上を見上げる。その目線の先には観覧車があって、先程拓也(たくや)と秋(あき)を取り敢えず二人きりにした。そして残り組は下で待機していた。
「......いいな」
葉瀬はぽつりと呟く。二人きりにしたはいいものの、そのせいで自分達は観覧車に乗れなかったのだ。
玲人はそれを確かに聞いた。でも自分と二人でいいのか、それが引っ掛かっていた。
「...玲人、乗ろ」
「え?ちょ」
「玲人、観覧車はいいんでしょ?だったら最後に乗っとこうよ。遊園地の醍醐味だよ?」
ほらほら、と葉瀬は手を引く。成すがままに玲人は連れていかれ、ぐいぐいと観覧車に押し込まれた。
スタッフさんに二人で会釈をして、二人を乗せたゴンドラはゆっくり上昇していく。
「おぉー観覧車だ~!」
子供のようにはしゃぐ葉瀬に対し、困惑のまま動かない玲人。
「......あ、ねね。見てみて、さっき乗ったやつ」
葉瀬は窓のそとを指差して玲人に話しかける。
「本当だ。さっき葉瀬がエグい程叫んでたやつ」
「止めろって~忘れろ~」
「あの時、一瞬声が無くなったから本当に吹っ飛ばされたのかと思ったよ」
「ふふっ、疲れて声出すのしんどくなりました」
「ふっ......まぁ生きてて良かったよ」
ゴンドラは更に上昇していく。
「見てみて!夕日!綺麗~」
「綺麗だね~」
「うわ、眩ち」
葉瀬はぎゅっ、と目を瞑る。
「ははっ、光に弱すぎ」
薄目を開けて玲人の方を見る。
夕色に染められた彼の茶髪が、きらきらと光っていた。
葉瀬はその光景にみいられていた。
「...何?」
じっ、と見ていたのに気づいたのか玲人が話しかけてきた。
「......綺麗だなって思って。髪」
「えっ、ぁ、りがと...」
平常心を保ち、素直に伝える。
嬉しかったのか、玲人はその後頻りに髪を触っていた。
夕日はいつまでも輝いていた。
お題 「二人ぼっち」
出演 葉瀬 玲人 拓也 秋
「今日は楽しかったね~」
「あ、あぁ!楽しかったな!」
今日、俺達四人は遊園地に遊びに行っていた。
俺が今この隣にいる人、秋(あき)にちょっとでも俺を気になってほしい、あわよくば告白出来たらと思って実行した。
残りの二人、葉瀬(ようせ)と玲人(れいと)は俺の作戦を知ってた上で来ていた。秋と二人きりで、なんて来れるわけがないため無理に誘ったのだ。
何かとあの二人は俺達を二人きりにさせようとしてきて本当に大変だった。でも嬉しかった。
最終的に秋と葉瀬は帰る方向が同じなのに、玲人の家に忘れ物したから取りに帰るとか言って俺に秋を押し付けていった。
そして結局、俺は告白出来ていない。
「バイキングの葉瀬の叫び声凄かったよね~」
「『降ろしてッ!降ろしてよぉぉッ!!!うわあああぁぁぁッッ!!!』...だったよね」
「そうそう!玲人さんも怖くて叫んでたはずなのに途中から心配してたよ!......葉瀬には悪いけど凄い面白かった...」
はははっ、と笑う横顔を眺める。
「でさー?.........拓也(たくや)?」
秋がそれに気づいてこちらを向く。
今だったら言えるかもしれない。
「あ、秋............す」
「す?」
「......す、...き、な人とか居んの?」
「......え?」
...ちょっと待って俺何やってんだよ!!!あと!!あとちょっとで!!アホかよ俺は!!!なんでそんなの付け足した!!!切れよ俺!!もぉぉぉぉ馬鹿ァァァァァァァァァァァッッ!!!
「好きな...人?なんで?」
「......い、や...俺彼女が出来たら、今日みたいな遊園地に連れていこうと思っててまぁ俺にはまだ彼女は居ないけどこれから出来る可能性はあるから考えてただけで、そういえば秋に聞いたことないなって思ったから聞いただけで皆に聞いてるから深い意味は全然ない」
(ああああぁぁぁバカァァァァァァァァァァァ)
「そうか......すきな人...」
秋は何か考えるように顎に手を当てる。
おかしい。前に聞いたときは『居ないから』だったのに。
「......その、一応...いる...?...かも」
「へぇ、そうなんだ」
...いつから。なんて聞けなかった。
知らなかった。秋にそんな人が居たなんて。
秋は凄い鈍感だからじわじわ攻めてくつもりだったのに。
頑張ろうと、思ったのに。
「...た、拓也は!?拓也は居るんでしょ!?」
「.........うん」
秋だよ、なんて言ったら困るよな。
「だよね」
「...俺、秋の事応援してるから。頑張って」
「え、あ、うん......ありがと。あ、ここら辺でいいよ。またね」
「うん、じゃあまた」
手を振って俺達は別々の道を歩く。
ゆったり、ゆったり、俺は帰り道を行く。
告白する前で良かったかもしれない。
(秋の事......応援しなきゃなぁ...)
胸がズキりと痛かった。逆に告白してしまえば良かったかもしれない。そっちの方が潔かったのかも。
俺はまだ、これを捨てるにはキツいらしい。
お題 「夢が醒める前に」
出演 拓也 秋 葉瀬 玲人
一目惚れだった。
いつもは遅刻寸前の俺が、ちょっとだけ早起きして、ゆっくり大学へ行く。
ふと目に入った花屋さんに、その人はいた。
白い透き通るような肌に映える、赤い唇。艶やかな髪はかき上げられ、きりりとした眉毛が見える。
そして何より、その瞳だ。
愛おしそうに花を見るその姿は、まるでこの地に舞い降りた天使のようだ。
俺は気づいたら花屋さんに入っていた。
いらっしゃいませ、と遠くで女性の声が聞こえる。
俺は彼女を探した。
彼女は青い小さな花の前にいた。
「あ、あのっ」
俺が声をかけると、気づいたのかこちらへ向かってくる。
「俺、貴女に一目惚れしましたっ!!もしよければ俺と付き合ってくれませんか!」
一度に溢れてしまった気持ちを告げると、奥の方で何やら女性達がこちらを見て盛り上がっている。もしかして、ここの店員さんだろうか。
「............」
「...あ、あのー...?」
彼女は驚いたまま、何も言わない。
もしかして振られたのか、そう思っていると彼女の口が開く。そして俺は聞いてしまった。
「俺...男なんですけど、知ってましたか」
衝撃の真実を。
「...え?えぇ!!?」
「やっぱり...」
美しい顔から、男性特有の低い声が何度も再生される。まさか、本当に?
「すみませんッ!!俺知らなくて!!!」
「ぁー...大丈夫です。よくあることなんで」
はは、と苦笑いをされる。
......いや、でも。
「でも、俺......貴方に一目惚れしました!!俺と付き合ってもらえませんか!!」
「無理です」
「なんでぇ!!!」
「なんでって......よく知らない人に付き合ってくださいなんて言われても、はい。わかりました、なんて言うわけないですよね」
「じ...じゃあせめて名前だけでも!!!」
「えぇー...」
「お願いします!!俺ここ通いますから!!」
「......雪(ゆき)です。あなたは?」
「!...海斗(かいと)です!!よろしくお願いします雪さん!」
「...よろしくね」
「あ!俺大学あるんで行きます!!では!!」
俺は急いで花屋さんを出た。
結局、いつもと変わらない時間になってしまったが、今日の遅刻は特別だなと感じた。
「よかったね~雪ちゃん!」
「良くないですよ言葉(ことは)さん......変なのに好かれちゃいました...」
「応援してる」
「氷華(ひょうか)さんまで...」
お題 「安らかな瞳」
出演 海斗 雪 言葉 氷華
夜、彼の家のソファでゆっくりしていると、仕事部屋からノートパソコンを持った彼が出てきた。
「あれ?終わったの?」
「いや、ここでやろうかなって」
「ほえー...私邪魔じゃない?」
「別に」
「......私が行こうか?」
「ここでいい」
「あっ......そう...」
彼はテーブルの上でパソコンを開くと、カーペットの上に座って作業を始めた。
カタカタとキーボードを叩く音だけが響く。
私はスマホを見るのを止めて彼を観察する。彼は作業中、肩まである茶色の髪を一つに束ねる。そしてコンタクトから黒縁の四角眼鏡へと変える。
(...あ)
束ね忘れだろうか、左側の髪だけ垂れている。
私はなんとなくの出来心で、その髪に触れた。
(サラサラ~...)
何回かブリーチをかけていると聞いたが、そんなの微塵も感じさせないような触り心地だ。
(髪、綺麗だなぁ...)
なんて事をぼんやりと考えていると、ぱっ、と彼が驚いた様にこちらを向く。
「えっ、わ、ごめん。邪魔だったよね」
「...ううん。ありがと」
「ん?なんで?」
「髪、褒めてくれたでしょ?」
「聞いてたの!?」
「口に出てたよ」
私は頭を抱えた。まさか口から出ていたとは。
「いやっ、髪だけじゃないから!全部!全部綺麗だからっ!」
「そんなに焦らなくても、お世辞なら大丈夫からね」
「お世辞じゃないし!髪だけって勘違いされたくない!!」
「えぇ...?」
「玲人(れいと)は全部綺麗です!異論は認めませ~ん。本人でもで~す」
「.........」
「あ!こいつアホだなって思ったでしょ!!顔に出てます!!」
「アホじゃないよ、漢字の阿保」
「一緒ッ!!!」
彼はパソコンを閉じて隣に座る。
「あ、仕事いいの?」
「うん。明日の分だしね」
「......私、邪魔した?」
「だから邪魔してないって、もう。くらえっ」
「いてっ」
私は彼から拳を肩に軽くぶつけられる。
「勘違いしまくった罰」
なんて笑いながら答える。む、可愛い...
「葉瀬(ようせ)も、髪サラサラだね」
「へへ~ん!でしょー?ほらほら~」
「ん、むふっ、サラサラ」
「ふふふ~」
彼に髪を推すと頭を優しく撫でてくれた。
「...葉瀬も全部綺麗だね」
「ん?本当?ありがと!毎日手入れしてんだよ~?」
「髪もだけど、葉瀬自身もね」
「えぇ?玲人が綺麗だよ~一番綺麗!」
「ふーん、じゃあ」
彼は下から顔を覗き込むように私の顔を両手で押さえる。そして
「その思考回路してる葉瀬も、一番綺麗だね」
と、言った。
「...そう、かなぁ...?」
「うん、そうだよ。一番綺麗な俺が決めたんだから、葉瀬も一番綺麗」
私は既に羞恥心のボルテージは上がっていたが、このせいで更に上がってしまった。
「ぅーゎ......うーわ!キザだ!イケメンだ!破壊神め!!」
「は?破壊神??」
「キザいわぁ~罪だわぁ~」
「えぇ?俺は思ったことを伝えただけだよ?」
「はいそーゆーとこー!!罪!!罪です!!」
「なら葉瀬も罪だね」
「え?」
「葉瀬が最初に言ったんだよ、髪綺麗だなぁって」
「うぐっ!!!」
「でも嬉しかったから許すよ。葉瀬は俺を許してくれないの...?」
彼は私に上目遣いをする。
これは自分の顔がいいと分かっていないと出来ないことだ。イケメンがこの顔をするのは耐えられない。
「......許すぅ...」
「ふふっ、ありがと葉瀬」
「............愛してますぜ、玲人」
「...え、何急に」
「いーじゃないですかぁ~~玲人は?」
「...俺も愛してる、よ?」
「ふふ、ありがと」
「...こ、こちらこそ...」
お題 「ずっと隣で」
出演 葉瀬 玲人
Q,お金より大事なものってなんですか?
「そりゃあ勿論、玲人(れいと)だよね!もし玲人で金銭要求されたら幾らでも払うよ!まぁその前に潰す」
「お前...俺が恥ずかしくなる事をよくもまぁ堂々と......というか怖」
「当たり前じゃん!なんで恥ずかしがるの?逆に玲人は何だよ」
「.........葉瀬(ようせ)だけど...!」
「ほらね!...............ん?あれっ...?」
「私はやっぱり王道に愛とかじゃないかな?ほら、愛はお金で買えないって言うし」
「私は...時間かな」
「え?なんで?」
「だってお金があっても、時間が無ければそれを使う事が出来ないでしょ?お金を使うのは時間があるから出来ることなんだよ」
「流石優雨(ゆう)!凄い!私は思いつかなかったなぁ...」
「考え方は人それぞれだし、希里(きり)の答えもいいと思うよ」
「本当?優雨ありがとう!」
「真人(まひと)との友情!」
「え」
「な、なんでそんな顔するの!!?真人との友情だよ!?大事に決まってるじゃん!!」
「......そんなにか?」
「そ、ん、な、に!!!...友情はお金で買えない、友情は築くものだからね!真人は何?」
「俺は.........なんか陽太(ひなた)がそう言うから、俺も陽太との友情に思えてきた...」
「え!?本当!!?嬉しい!!」
「うーん...お客さんと氷華(ひょうか)の笑顔かなぁ...?お花で喜んでもらえるのを見ると、凄く嬉しいし...氷華はどう?」
「私は......お金かな」
「えっ、なんで?」
「だってお金さえあればお姉ちゃんは花屋を続けられるし、お客さんだってここにお花を買いに来ることが出来る。だから私はお金」
「...つまりは私の為って事...?」
「......そう、だね。うん。うん.........私、お姉ちゃんが一番大事」
「あ、え?お金は?」
「いらない」
「自分の命だよ。お金なんて、私達にとってはただの紙切れなんだから。人間さえ生きていれば、私達は飢えることがない。精々お金は、人間が生きるために必要だから大事ってことくらいかな」
「でもその人間を誘き寄せるには、お金が必要なんじゃないの?」
「それも一理あるね。でもどうせ一瞬でしょ?それに、最低一人でも生きていればいいじゃない」
「...そうだね。確かにいらないかも」
これを踏まえた上で問いに答えなさい。
A,(あなたの答え)
お題 「お金より大事なもの」
出演 葉瀬 玲人 希里 優雨 陽太 真人
言葉 氷華 ブロック・アンノウン
レリーレ・デアガイ