#バレンタイン
部屋中から甘い香りがする。
お菓子作りなんて久々にした。
小学生の頃は友チョコなんて物が流行って、
クッキーを作ったり、いちごにチョコをかけたりして
ラッピングして渡していた。
好きな相手にチョコを渡したのも小学生だった。
市販のチョコと鉛筆。
何が好きか考える時間がドキドキした。
あれから20年。
久々に好きな相手へチョコを渡す事にした。
市販のチョコは絶対美味しいし、見た目だって素敵だ。
それでも手作りのチョコを渡したい。
バレンタインには手作りを。
恋をする相手の為ではなく、恋をする自分の為に。
自己満足に過ぎないけれど、イベントは全力で楽しむ。
社会人になった私のポリシーだ。
それでも思いが届いたらいいなと願いを込めて
丁寧にリボンを結ぶ。
私の気持ち、気づいてくれていますか?
実は小学生振りの手作りチョコなんです。
大人になってこんなにドキドキする事が久々過ぎて
今、私どんな顔していますか?
今日の為に新しいワンピースも買ったんです。
とびきりかわいい私でいたいから。
溢れそうなドキドキを胸に紙袋を差し出す。
「実は、前から好きだったんです…」
#あなたに届けたい
昨日、仕事で失敗しちゃったんだ…。
今日、新しい靴を買ったの。
明日、久しぶりに会う友達とご飯に行くんだよ。
悲しかった事、嬉しかった事、楽しみな事。
小さな事も大きな事も全部あなたに伝えたい。
子どもの頃、人に自分の事を話すのが苦手だった。
今でもそれは変わっていなくて、
友達との会話は聞き役が多い。
私の事なんて…ってネガティブな感情が先行して
躊躇ってしまう。
でも、あなたにだけは何でも話してしまう。
本当は自分の話をする事が苦手なのは彼も知っている。
彼と付き合う前、一度だけネガティブすぎる思考を
話してみた。
面倒だなって思われるかな…。
「俺は君の事、知りたい。君に興味がある。
俺も何でも伝えるから、君も何でもいいから
教えてくれると嬉しい」
怖くなって俯きながら話す私に彼は言った。
彼は何でも伝えてくれる人だった。
朝、パン食べたよ。段差でつまづいて恥ずかしかった。
昇進試験に合格したよ。
些細な事から大きな事まで何でも。
そんな彼に影響されて今では私も自分の事を
伝えるようになった。
受け止めてくれる人がいるから安心して伝えられる。
今日の出来事と一緒に私の気持ちをあなたに届ける。
"今日ね、お昼食べたワッフルが美味しかったよ。
いつも色々聞いてくれてありがとう。大好きだよ"
"何、急に…。ビックリしてお茶吹いたんだけど…笑
こちらこそいつもありがとう。俺も大好きだよ。
今度、そのワッフル一緒に食べに行こうね"
#特別な夜
明日、私は大好きな彼と結婚式をする。
結婚式は小さい頃からの憧れだった。
初めて結婚式に行ったのは幼稚園の頃。
担任の先生の結婚式だった。
当時、プリンセスが大好きだった私。
キラキラなドレスを着る先生の笑顔が忘れられなくて、
結婚式は私にとって憧れの物になった。
高校生になっても結婚式への憧れはなくならなかった。
ウエディングプランナーという仕事がある事を知り、
ブライダルの専門学校へ進学した。
就職して、キラキラな世界とは程遠く
現実は中々大変で厳しい世界の仕事だったけれど、
結婚式当日の花嫁さんの姿にやりがいを感じた。
大好きな仕事だったけれど、私も主役になりたかった。
綺麗なドレスを着たかった。
同じ職場の先輩から告白をされた時は驚いたけど、
密かな私の憧れの人だったから嬉しかった。
そんな彼と明日、結婚式を挙げる。
プランナー同士、仕事が忙しくて準備は大変だった。
それでも小さい頃から憧れの結婚式を挙げられる事が
嬉しくて頑張った。
彼も私が結婚式に憧れをもっている事は知っていたから
私の理想を叶えるために頑張ってくれた。
「なあ、明日だな」
不意に彼が話し始めた。
「そうだね。子どもの頃からの夢だったから
とっても嬉しい…」
「そういえば言ってなかったんだけど、
俺も結婚式、子どもの頃からの憧れだったんだ」
「え、そうなの?」
「親戚の結婚式に初めて行って、
すげー素敵な空間だなって、
俺もいつか自分の結婚式挙げたいなって思ってた。
就職面接の時にもこの話、したんだよ」
「私も就活でしたよ!知らなかった…」
「それは聞いてたな笑」
「今更だけど私の理想ばっかり聞いてもらって、
大丈夫だった…?」
「俺の理想の結婚式は大好きな人と一緒に幸せな空間を
作り上げる事だから、それは大丈夫」
「ありがとう…。あなたと結婚できて嬉しい」
「それはこっちのセリフだよ。お互い、他人の結婚式の
準備も抱えながら頑張ったよな…笑」
「本当だよね笑 ちょっとセーブすれば良かったとは
思ってる笑」
「確かに笑 明日、良い式になるといいな」
「そうだね。まあ、プランナー同士の式ですから、
大丈夫でしょ笑」
「それもそうだな笑」
彼と笑い合う。
この空間が嬉しくて幸せだ。
明日の結婚式もきっと忘れられないものになると思う。
でも、今この時もきっと同じくらい忘れられない
特別なものになると思う。
改めて彼の優しさを、彼の愛を知り、
この人と私の憧れを叶えられる事が嬉しい。
「俺も憧れを叶えられる相手が君で嬉しいよ」
「…えっ?」
「独り言、声に出てましたよ笑」
「わあ… 聞かなかった事には…」
「しないよ笑 変な事言ってないからいいでしょ笑」
「まあ、良いけど…恥ずかしすぎる…笑」
「あははっ!」
お腹を抱えて爆笑し始めた彼を横目にきっとこれからも幸せな家庭を築く事ができると感じる。
特別な夜に窓から見える星に
これからの幸せの願いを込めてから、
今だに笑い続ける彼をどうにかしよう笑
「ねえ、笑いすぎ…!」
#色とりどり
ピンク、緑、紫、黄色、黒、白。
各々、好きな色の晴れ着に身を包んで
新たな階段を登る。
今日は成人の日。大人の仲間入りをする日だ。
高校振りの友人、中学以来会っていなかった同級生。
メイクをして、髪を整えて、ネクタイを締めて、
学生の頃には見られなかった大人な一面に胸が高鳴る。
初めて同級生とお酒を飲み、将来について語り合う。
進学したからまだ学生ではあるけれど、友達との会話が
大人になった事を実感して笑い合う。
あれから6年。
社会人になり、思い描いていた将来とは少し違う
日常を送っている。
友達との会話は仕事の愚痴、将来への不安。
もう少し、素敵な大人になっている事をあの時は
想像していたのに…。
それでも変わらないのは、友達と会えば最終的に
学生の頃を振り返って思い出話に笑い合っている。
大人になったなと思う反面、まだまだ学生のように
くだらない事で笑い合える事が1番嬉しい。
テレビを付けると、各地の新成人が色とりどりの
晴れ着を身に付けて将来について語っている。
どんなに素敵な晴れ着よりも、大人になったと自覚して
将来について語るその瞳が、その顔が
とても素敵だと思う。
晴れ着よりももっと素敵な色とりどり溢れる未来が
彼らに訪れる事を願って…。
#クリスマスの過ごし方
子どもの頃好きだった絵本がある。
『さむがりやのサンタ』という
サンタクロースがクリスマスにプレゼントを準備したり届けたりする様子を漫画のようにコマ割りされて、
たくさんの絵と少しのセリフだけの絵本だ。
寒いのが苦手で、面倒くさがりなサンタクロース。
ブツブツと文句を言いながらも準備をしていく。
何だか子どもの夢が壊れそうなサンタクロースだけれど
本当にどこかで準備をしているんじゃないかと思って、クリスマスが近づくたびに読んでいた。
クリスマスと言えばもう一冊、好きな絵本がある。
『サンタさんからきたてがみ』という
ねずみの郵便屋さんが主役の物語。
雪で汚れて宛名が分からなくなった手紙を森の動物達と
考えていくと、サンタクロースからプレゼント配りを
お願いするねずみの郵便屋さん宛の手紙だった。
動物達とサンタクロース。
ファンタジーに溢れる非現実的な物語にワクワクして、
『さむがりやのサンタ』と一緒に読んでいた。
大人になって保育士になった現在。
クリスマスが近づくと本棚に2冊の絵本を置く。
ワクワクした顔で読む子、パラパラとめくって読む子、
これ読んでと私の所に持って来る子。
楽しみ方はそれぞれだ。
子ども達と一緒に私も絵本を読む。
もしかしたら私が1番楽しんでいるかも。
ページをめくった瞬間にあの頃の気持ちを思い出す。
「先生、クリスマスって楽しいね!」
一緒に絵本を見ていた1人の子がキラキラした目で
私にそう言う。
「うん、楽しいね!」
彼女にそう言うと嬉しそうに笑う。
純粋に楽しめるそのキラキラした目、
大人になっても忘れないでほしいな…。
どこかにいるサンタクロースに願いを込めて
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