#イブの夜
恋人と過ごす、初めてのクリスマスイブ。
社会人になって人生で初めてできた恋人。
クリスマスに恋人がいなくて寂しいと、
友達の話に共感できなかった学生時代。
家に帰れば家族がいるじゃない。寂しいって何…?
恵まれている家庭で育ったのか、
単純に恋人ができない事に捻くれて言った
強がりだったのか。
どっちだったのか今でもそれはよく分からないけれど、
クリスマスに恋人がほしい理由はよく分かった。
恋人がいるとこんな幸せな気持ちになるなんて
思わなかった。
「はい、これクリスマスプレゼント」
1人幸せに浸っていると、彼が渡してきた。
「わあ、ありがとう!私も、メリークリスマス!」
「ありがとう!開けて良い?」
「うん!私も開けるね〜」
2人で開け始めて、思わず目が合う。
中身は2人ともマフラーだった。
しかも、色違い。
「クリスマスプレゼント何が良いか分からなくて…」
何にしたら良いか分からなくて、定番を選んだのに
理由まで一緒なんて…笑
「私も何が良いか分からなかった」
「ははっ、そうだよね笑 でも、これでお揃い…だね」
「うん…!」
初めてのお揃いが思いがけない形になったけれど、
とっても幸せだ。
恋人がいるクリスマスの幸せを知ってしまったから
もう、あの頃には戻れない。
今頃子ども達にプレゼントを配る為にイブの空を
駆け巡っているであろうサンタクロースに願う。
来年も、その先もずっとあなたと一緒に幸せな
クリスマスが過ごせますように。
#プレゼント
子どもの頃、クリスマスが嬉しかった。
朝起きるとプレゼントが届いているから。
「ねえ、サンタさんから何貰った?」
「鞄貰ったよ!何貰った?」
「私は欲しかったゲーム貰った!あと、珈琲置いたら
半分なくなっていたの…!」
「えー!凄い…!私も今度置いてみよ〜」
学校に行く途中も、プレゼントの話が止まらなかった。
大人になるのが楽しみだったのに…。
サンタなんていないじゃないか。
街がクリスマスムードで賑わう中、終わらない仕事と
格闘していた。
「あーあ、早く寝ないとサンタさん来ないのに…。」
「ははっ、頑張っている君にサンタだよ」
「先輩…!」
私が密かに憧れている先輩が、カフェラテを持ってきてくれた。
「明日のイベントが終わったら予定はあるか?」
「え…!ないです、ないです!」
「今日の夜、てか今だな。
サンタになってプレゼントは届けられないけれど、
大人のデートを一緒にしないか?」
「ぜひ…!喜んで!」
「あともう少しで終わりそうじゃないか。
明日のイベントとデートに向けて早く寝ないと
サンタが来ないぞ笑」
「あー!さっきの事は忘れてください…!」
「ははっ、分かったよ笑 あと少し頑張ろう」
「ありがとうございます!」
先輩がくれたカフェラテを飲んで
さっきまで沈んでいた気持ちが上がるのが分かった。
我ながら単純すぎる。
子どもの頃の私へ。
クリスマスまで仕事をする大人になるとは思わなかったけれど、素敵なサンタさんから素敵なプレゼントが
貰えたよ。大人になるって楽しいね。
#ゆずの香り
大人になって、恋人を作ろうとアプリを始めた。
気になる人もできて、何だか良い感じ。
でも、今まで恋愛なんてしてこなかったから、
相手の心が分からなくて不安ばかりが募る。
もう一回会いたいって言ってくれたけれど、
私の事どう思っている?何人の中の1人なのかな?
私だけに会いたいって思ってくれていたら嬉しいな…。
今日は2回目のデート。
クローゼットを開けて、私が1番可愛く見える服を探す。
鏡を見て、私が1番可愛く見えるメイクをする。
よし、これで大丈夫。
ドキドキする気持ちを無視して、自分に言い聞かせる。
多分、大丈夫…。
家の鍵を掛けてドキドキする気持ちに蓋をする。
あ、これ忘れてた。
鞄の中からハンドクリームを取り出す。
指の先まで、可愛い私でいたいから。
ゆずの香りがする私のお気に入り。
あなたに可愛いって思ってほしくて、
できる事は頑張った。
可愛いって言ってくれたら嬉しいな。
冷たい風が吹く冬の空に願いを込めて歩き出した。
#とりとめもない話
「ねえ、昨日のドラマ見た?」
「見たみた!あの主役の俳優、かっこいいよね!」
「うん!でも、私は友達役の俳優が好きだな〜」
「あ!そっちの人も好き〜!」
「さっき、主役の方って言ってたじゃん!」
「え〜、だってどっちもかっこいいんだもん」
「まあ、わかるけどさあ」
大きな声で楽しそうに昨日のドラマの話をする
クラスメイト。
うんうん、私もそのドラマ見たよ。
私は途中で出てくる花屋さん役の俳優が好きだよ。
本を読むフリをしながら心の中で彼女達と会話をする。
本当は私だって、彼女達とドラマの話がしたい。
明日のテストの話、この後の席替えの話、
好きなアイドルの話、好きな食べ物の話。
何でもない話がしたい。
話したい事はたくさんあるけれど、
人と話す事が苦手な私。
仲の良い友達と離れてしまい、高校に入学して1ヶ月。
自分から話しかける勇気もなく、1人になってしまった。
周りはどんどん、友達を増やしていくのに。
あと一歩の勇気が出ず、今日も心の中で会話をする。
「ねえ、その本。昨日のドラマの原作だよね?」
「えっ…」
声のする方を見上げると、さっきまでドラマの話で
盛り上がっていた彼女達だった。
「突然ごめんね。ずっと気になってたんだ〜」
「うん、そうだよ…」
「ドラマ見てる?」
「…っ。うん、見てるよ」
「ねえ、この後どうなるの?
あ、待って。やっぱり言わないで〜」
「んふふ、まだ何も言ってないよ」
「あは、可愛い顔で笑うんだ〜。
ずっと話したかったんだよね。いつも本読んでるから
あんまり人と話すの得意じゃないんだろうなと
思ってたけど、よく見たらドラマの原作だからさ。
気になっちゃった!」
「ううん、嬉しい。話したいなと思ってたから」
「え!私も嬉しい!ねえねえ、テスト勉強で
わからない所あるから教えてほしい!」
「うん、いいよ」
「やった〜!あとさ、席替えどこの席がいい?」
次から次へと変わる話題。
たくさん話してくれる事が嬉しくて思わず涙が溢れる。
「ちょっと、あんた何泣かしてんのよ」
「え、ごめんね!大丈夫??」
「ううん、大丈夫。ありがとう」
あの日から話すようになった私達。
社会人になった今でもLINEで近況報告したり、
お互いの誕生日を祝ったりするほどの仲良しになった。
2人も私と話してみたかったけど意外と人見知りだった
みたいで、タイミングが掴めなかったらしい。
似た物同士だね、って笑い合ったのが懐かしい。
今でも話しかけられて泣いたのはネタにされるけど、
笑い合えるくらい仲良くなれて嬉しいよ。
これからもとりとめのない話をたくさんしようね。
#何でもないフリ
家が隣で、親同士が仲良し。
生まれた病院も一緒で、小さい頃から家族ぐるみで
旅行に行った事もある。
少女漫画かよ、って思うほど
俺とあいつはいつも一緒だった。
可愛くて、優しくて、しっかりしていて。
あいつの事を好きになるのに時間はかからなかった。
テストの点数、嫌いな教師、親への不満。
あいつには何でも話せたし、
あいつも俺に何でも話した。
でも1つだけ。恋愛話だけはあいつにできなかった。
それなのに、あいつは俺に恋愛相談をする。
あいつの好きな奴は俺の親友だった。
好きな奴と仲の良い、自分の幼馴染。
恋愛相談をするには完璧な相手だった。
けれど、あいつの恋愛が上手くいかない事を
俺は知っている。
親友には俺と同じように昔から好きな幼馴染がいた。
親友の幼馴染も、親友の事が好きなようだった。
親友の事を話すあいつの顔が悔しいくらいに1番可愛い。
その顔、俺がさせたいんだけど。
そうカッコよく言えたらどれだけ良いのだろう。
漫画のような設定の俺とあいつ。
この先の未来が漫画のようなハッピーエンドだったら。
女々しい事を頭の中でぐるぐると考える。
ああ、情けない。
それでも俺は、頼りにされている事が嬉しくて
心が傷ついている事に無視しながら
何でもないフリをして今日も恋愛相談に乗る。