陽葵

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2/24/2025, 1:32:11 PM

#一輪の花

"お金もないし、指輪も買えないけれど、
一生大切にするから結婚してほしい…"

一輪のひまわりの花を渡しながらのプロポーズ。

指輪もないし、夜景の見えるレストランでもない。

もっとかっこよくプロポーズしたかったけれど、
芸人を目指す俺にはお金がなかった。

それでもプロポーズをしたのは彼女があと少ししか
生きられないから。

彼女は別れを告げようとしたけれど、大好きだったから彼女と自分の夢を追いかける事を選んだ。

"どんなプロポーズよりも、世界で1番かっこいいよ"

泣きながら言ってくれた彼女のために
夢を叶える事を誓った。

相方と何度もオーディションを受けた。
小さな会場でライブをした。

毎回見に来てくれて、涙を流しながら笑ってくれる。

その笑顔に元気を貰い、どんな事も頑張る事ができた。



ねえ、賞レースで優勝したんだよ。

でっかいひまわりの花束買ったんだ。

憧れてた指輪も買ったよ。
ドラマで見ていいなって言ってたの知ってるよ。

なんで笑ってくれないの。なんで喜んでくれないの。

芸人なんだから彼女の事を笑かさないといけないのに。
涙しか出てこないのは何故だろう。

綺麗な顔で眠る彼女の手にあの時渡せなかった
ひまわりの花束を握らせた。







2/16/2025, 2:45:12 PM

#時間よ止まれ

好きだったアイドルがいた。

いつから好きだったか、なんで好きになったのか。
理由も覚えていないけれど、ずっと好きだった。

受験で挫けそうになった時。
あの人も頑張ってるからと私の活力になった。

就職試験で緊張した時。
頭の中であの人の歌声を再生して私の安定材となった。

でも今は、アイドル姿を見る事ができない。

活動を休止してしまった。

テレビで見る事はできるけれど、
私が見たいのはあなたが大好きなメンバーと一緒に
笑っている姿だ。

メンバーがいる時にしか見せない、いたずらそうな
愛に溢れている笑顔が大好きだった。

アイドルとしてどんな所にいるファンでも
盛り上げようとするその声が好きだった。

活動を再会する予定はあると答えているけれど、
きっとないんだろうなと思っている。

いつか、ネットで見かけた
彼らは宝箱に閉じ込めたんだという表現が
妙に納得してしまった。

私の青春だった。

大好きだった。

ずっと歌っている姿を見たかった。

宝箱になんか入れないでよ。

時間が止まればいいのに。

でも、あの人がアイドルをお休みした時に
新しいアイドルを見つけた。

今の私の活力は新しいアイドルだ。

あの人がお休みしなければ、
私は出会わなかったかもしれない…。

6/1/2024, 1:46:22 PM

#梅雨

「はぁ…」
盛大に溜息をつく私を見て、彼がゲラゲラ笑い出す。

「もう、笑わないでよ…」

「ごめんね。でもあまりにも感情漏れていたから…」
そう言ってまた笑い出す。

今日は初めての結婚記念日で出かける予定だったのに、朝から雨が降っている。

「天気予報は晴れだったのに…」

「確かに。まさか土砂降りになるとはね…」

初めてデートした公園へ紫陽花を見に行く予定だった。
付き合って初めての記念日から毎年行っている思い出の
場所だ。

「今まで雨なんて降った事なかったのに…」

「まあまあ、きっといい事あるよ。
 お家でお祝いしよっか。
 材料とかケーキとか買いに行こうよ」

「…うん」

この日を楽しみに1週間頑張ったから、中々気持ちが
切り替えられない。
梅雨の時期だからしょうがないけれど、
今まで晴れだったから初めての結婚記念日も同じ場所でお祝いしたかったのに…。

私が切り替え苦手だから、彼にも申し訳ない気持ちで
どんどん負の連鎖になっていく。

「切り替えなきゃ…」
無理矢理、笑顔を作ってみる。
せっかくの記念日なのに、可愛くない…。

「わあ…!」
沈んだまま出かける準備をして、玄関を開けると
虹がかかっていた。

「ねえ!見てみて!」

「おお〜!いい事あったね」

「…うん!」

「公園行く?」

「ううん、お家でお祝いがいい」

「いいよ、特別バージョンだね」

「うん!」

彼はいつだって私の心を晴れにしてくれる。
これからきっと雨が多くなるけれど、
2人で楽しんでいこうね。

3/31/2024, 3:31:01 PM

#幸せに

温かい春の日。
今日、俺は大好きだった人の結婚式にいる。

家が隣の幼馴染で、初恋の人だった。
親同士も仲良くて小さい頃は一緒に旅行も行っていた。

明るくて笑顔が可愛くて、でも恥ずかしがりやで
人前に出ると真っ赤な顔をして一生懸命話していた。

男女の友情は成立すると思っていたけれど、
その笑顔に、頑張る姿に気づいたら恋に落ちていた。

自分の気持ちに気づいた時、君は既に
俺の親友へ恋をしていた。

好きな人を追っていたら、相手の好きな人に
気づいてしまった。

振られる事が怖くて告白する勇気なんてなかった。
好きな気持ちを無視してあいつの恋を応援した。

付き合った後、1番に報告する嬉しそうな君の顔が
可愛くて、悲しかった。

ずっと好きだった。悔しいけれど、
あいつの隣にいる君が1番幸せそうな顔をしている。

白いドレスに身を包む君は世界で1番可愛い。
本当は俺の隣で笑ってほしかった。

でも、あいつがいい奴なのも知っている。
だって俺の親友だから。

今日で君を好きな気持ちは最後にする。
さようなら、俺の大好きだった人。

今日からは2人共、俺の親友だね。
これからも俺と仲良くしてね。

頬を伝う涙に気づかない振りをして祝福の拍手を送る。
ずっと幸せに…。

3/17/2024, 2:53:16 PM

#泣かないよ

部活で先生に叱られた。
バイトで店長に怒鳴られた。
仕事で上司に注意された。

泣く事は負けだと思っていた。
それでも自分の感情が言葉にできなくて、堪えきれずに
どうしても涙が溢れる事があった。

でも涙は誰かに見せたくなかった。
慌ててトイレに駆け込んだり、
誰もいない空間に逃げ込んだりしていた。

泣いた事が分かる顔で家に帰る事も嫌だった。
薬局でメイク道具を買って必死に誤魔化していた。

大丈夫、私はできるから。
ちょっと感情が抑えられなくなっただけだから。
自分に嘘の言い訳をしながら涙を拭っていた。

「ねえ、君って泣き顔見せてくれないよね」

最近同棲を始めた彼に、言われた。

「え?喧嘩とかしてないからね笑」

「そうじゃなくて、仕事とかで嫌な事があった時とか。
 隠しているんだなと思っていたから言わなかった
 けれど、気づいているよ」

「…、ごめん」

「ああ、ごめん。怒っている訳じゃなくて、
 そういう姿を見せる事が苦手なんだろうけど
 少しは頼ってくれると嬉しいなと思って…」

「そうだね…。ありがとう」

「だって俺ばっか泣いている姿見せてるのも
 恥ずかしい…笑」

「確かに、そうかも笑」

彼は驚く程、私の前で泣いている。
嬉しい時、悲しい時。結構涙脆いらしい。

「俺との事では泣かせないよ。でも君が知らない所で
 1人で泣いているのは悲しいから」

「ふふ、ありがとう」


久しぶりに上司から叱られた。
あまりにも理不尽で、返す言葉も上手く見つからず
涙が溢れそうになる。

あんたの前では絶対泣かないよ。
何で私が泣かないといけないの。

怒りと悲しみを抱えて、玄関を開けた。

「おかえり!…、なんかあった…?お疲れ様」

優しい彼の笑顔を見て、1日抱えていた物が
溢れ出してくる。

「…ごめん、」

「んーん、やっと頼ってくれるようになったね、」

「…ん」

「寒いからシチュー作ったよ。一緒に食べよっか」

彼の優しさにもっと涙が溢れてくる。

「え!ごめん、なんか嫌だった…?」

「んーん、違うよ。ありがと…」

あなたの優しさのせいだよって言ったら何て言うかな笑
きっと困ったみたいに笑うんだろうな。

大丈夫。泣かないよ。
優しく受け止めてくれるあなた以外の前ではね。

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