陽葵

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6/1/2024, 1:46:22 PM

#梅雨

「はぁ…」
盛大に溜息をつく私を見て、彼がゲラゲラ笑い出す。

「もう、笑わないでよ…」

「ごめんね。でもあまりにも感情漏れていたから…」
そう言ってまた笑い出す。

今日は初めての結婚記念日で出かける予定だったのに、朝から雨が降っている。

「天気予報は晴れだったのに…」

「確かに。まさか土砂降りになるとはね…」

初めてデートした公園へ紫陽花を見に行く予定だった。
付き合って初めての記念日から毎年行っている思い出の
場所だ。

「今まで雨なんて降った事なかったのに…」

「まあまあ、きっといい事あるよ。
 お家でお祝いしよっか。
 材料とかケーキとか買いに行こうよ」

「…うん」

この日を楽しみに1週間頑張ったから、中々気持ちが
切り替えられない。
梅雨の時期だからしょうがないけれど、
今まで晴れだったから初めての結婚記念日も同じ場所でお祝いしたかったのに…。

私が切り替え苦手だから、彼にも申し訳ない気持ちで
どんどん負の連鎖になっていく。

「切り替えなきゃ…」
無理矢理、笑顔を作ってみる。
せっかくの記念日なのに、可愛くない…。

「わあ…!」
沈んだまま出かける準備をして、玄関を開けると
虹がかかっていた。

「ねえ!見てみて!」

「おお〜!いい事あったね」

「…うん!」

「公園行く?」

「ううん、お家でお祝いがいい」

「いいよ、特別バージョンだね」

「うん!」

彼はいつだって私の心を晴れにしてくれる。
これからきっと雨が多くなるけれど、
2人で楽しんでいこうね。

3/31/2024, 3:31:01 PM

#幸せに

温かい春の日。
今日、俺は大好きだった人の結婚式にいる。

家が隣の幼馴染で、初恋の人だった。
親同士も仲良くて小さい頃は一緒に旅行も行っていた。

明るくて笑顔が可愛くて、でも恥ずかしがりやで
人前に出ると真っ赤な顔をして一生懸命話していた。

男女の友情は成立すると思っていたけれど、
その笑顔に、頑張る姿に気づいたら恋に落ちていた。

自分の気持ちに気づいた時、君は既に
俺の親友へ恋をしていた。

好きな人を追っていたら、相手の好きな人に
気づいてしまった。

振られる事が怖くて告白する勇気なんてなかった。
好きな気持ちを無視してあいつの恋を応援した。

付き合った後、1番に報告する嬉しそうな君の顔が
可愛くて、悲しかった。

ずっと好きだった。悔しいけれど、
あいつの隣にいる君が1番幸せそうな顔をしている。

白いドレスに身を包む君は世界で1番可愛い。
本当は俺の隣で笑ってほしかった。

でも、あいつがいい奴なのも知っている。
だって俺の親友だから。

今日で君を好きな気持ちは最後にする。
さようなら、俺の大好きだった人。

今日からは2人共、俺の親友だね。
これからも俺と仲良くしてね。

頬を伝う涙に気づかない振りをして祝福の拍手を送る。
ずっと幸せに…。

3/17/2024, 2:53:16 PM

#泣かないよ

部活で先生に叱られた。
バイトで店長に怒鳴られた。
仕事で上司に注意された。

泣く事は負けだと思っていた。
それでも自分の感情が言葉にできなくて、堪えきれずに
どうしても涙が溢れる事があった。

でも涙は誰かに見せたくなかった。
慌ててトイレに駆け込んだり、
誰もいない空間に逃げ込んだりしていた。

泣いた事が分かる顔で家に帰る事も嫌だった。
薬局でメイク道具を買って必死に誤魔化していた。

大丈夫、私はできるから。
ちょっと感情が抑えられなくなっただけだから。
自分に嘘の言い訳をしながら涙を拭っていた。

「ねえ、君って泣き顔見せてくれないよね」

最近同棲を始めた彼に、言われた。

「え?喧嘩とかしてないからね笑」

「そうじゃなくて、仕事とかで嫌な事があった時とか。
 隠しているんだなと思っていたから言わなかった
 けれど、気づいているよ」

「…、ごめん」

「ああ、ごめん。怒っている訳じゃなくて、
 そういう姿を見せる事が苦手なんだろうけど
 少しは頼ってくれると嬉しいなと思って…」

「そうだね…。ありがとう」

「だって俺ばっか泣いている姿見せてるのも
 恥ずかしい…笑」

「確かに、そうかも笑」

彼は驚く程、私の前で泣いている。
嬉しい時、悲しい時。結構涙脆いらしい。

「俺との事では泣かせないよ。でも君が知らない所で
 1人で泣いているのは悲しいから」

「ふふ、ありがとう」


久しぶりに上司から叱られた。
あまりにも理不尽で、返す言葉も上手く見つからず
涙が溢れそうになる。

あんたの前では絶対泣かないよ。
何で私が泣かないといけないの。

怒りと悲しみを抱えて、玄関を開けた。

「おかえり!…、なんかあった…?お疲れ様」

優しい彼の笑顔を見て、1日抱えていた物が
溢れ出してくる。

「…ごめん、」

「んーん、やっと頼ってくれるようになったね、」

「…ん」

「寒いからシチュー作ったよ。一緒に食べよっか」

彼の優しさにもっと涙が溢れてくる。

「え!ごめん、なんか嫌だった…?」

「んーん、違うよ。ありがと…」

あなたの優しさのせいだよって言ったら何て言うかな笑
きっと困ったみたいに笑うんだろうな。

大丈夫。泣かないよ。
優しく受け止めてくれるあなた以外の前ではね。

3/11/2024, 2:09:12 PM

#平穏な日常

朝、携帯から嫌な音楽が流れ始める。起きる時間だ。
「んん…、」
スッキリ開かない目でアラームを止める。
いつもより、5分遅い。
慌てて起き上がって支度を始める。

電車は今日も満員だ。人混みは得意じゃないのに…。
嫌な気持ちをしまい込むように
鞄からスマホを取り出す。

「あっ、そっか」
思わず出た独り言を隠すように慌てて咳払いをする。

今から13年前。
平穏な日常が一瞬でなくなった。
幸い、私の住んでいる所は少し遠かったから
すぐにいつもの日常が戻ってきた。
それでもTVから流れる映像はいつもの日常からは
ほど遠い物だった。

教科書でしか知らなかった災害の怖さ。
遠くにいても感じる揺れに、先生の緊迫した声に
今とても危険な出来事が起きている事を理解した。

一瞬でなくなってしまう日常に、
今生きている事が当たり前ではない事を
改めて知らされた。

あれから長い月日が流れ、なくなってしまった街は
少しずつ平穏な日常を取り戻しているのだろう。
それでも心に刻まれた恐怖や悲しみは
決してなくならない。

自分の近くでいつ起こるか分からないけれど、
今友達と会ったり、好きな音楽を聴いたり、
当たり前の毎日がこれからも続きますように。
これ以上、平穏な日常がなくなりませんように。
誰にお願いしたら届くのか分からない願いを胸に
私は今を生きていく。

3/10/2024, 1:55:39 PM

#愛と平和

「ねえ、お母さん。愛って何?」

高校生になる娘が夕飯を作る私にそう尋ねた。
普段、愛や恋などとは無縁の話をする娘の唐突な発言に驚いて菜箸が床に落ちた。

「ちょっと、いきなりどうしたのよ」

「学校の宿題でさ、愛と平和について考えなさいって
 言われたから。平和は何となく分かるけど愛って
 何かなって思って聞いた」

「すごいテーマの宿題ね。うーん、愛か…」
宿題だから自分で考えた方が良いのではという
心の声は置いておく。

「お母さんは愛があれば平和になると思う?」

「そうね…。基本的には平和になるんじゃないかな」

「基本的には…?ならない時もあるの?」

「愛が深すぎてしまうと、
 独占欲に変わったりするじゃない?そうなると相手の
 自由を奪ったり、気持ちを無視したりする事にも
 繋がったりするから平和とは言えない気がするわ」

「束縛的な事…?それは確かにそうかも」

「でももっと広い心でみんな仲良しみたいな愛だったら
 きっと争い事が生まれなくて平和になると思うわ」

「なるほど…。お母さんは家族の事、愛してる?」

「そうね、愛しているわ。でもそれでいうと
 少し深い愛になるかもしれないわ」

「えっ…、どういうこと?」

「もし家族が危ない目に遭った時、
 自分の命を犠牲にして守りたいって思うからかな」

「えー、みんなで助かろうよ。それか、みんなで犠牲に  
 なろうよ」

「んふふ、あなたも中々深めの愛をもっているのね」

「あ、そうかも笑 だってお母さんの娘だしね。
 宿題、終わりそう。ありがとう!」

早口で言った後、どことなく顔が赤くなった娘は
自分の部屋へ逃げるように向かって行った。

「可愛い娘。閉じ込めたいほど愛しているわ」

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