陽葵

Open App
11/28/2023, 1:50:20 PM

#終わらせないで

「デート、楽しかったね!」

そう言った僕に、少し震えた声で頷く彼女の声に
何故、気づけなかったのだろう。

お互い、仕事が忙しくて久々になったデート。
彼女と過ごせる時間が嬉しくて、楽しくて、
いつもなら気付ける彼女の変化に、
気付く事ができなかった。

デートから1週間。
いつも返信の早い彼女と連絡が取れなくなった。
仕事が忙しくて1日空く事はあったけれど、
1週間は初めてだった。

次の日、
彼女の携帯に連絡を取る事はできなくなっていた。

何故、どうして…。

共通の友人であり、彼女の親友へ連絡を取った。

「私から言ったら怒られちゃうなぁ。
 でも、私はこの方がいいと思っていたから話すね」

そう切り出して話し始めた友人の話に
僕は涙が止まらなかった。

「もう…泣いてないで、さっさと会いに行きなさい」

そう背中を叩いて励ましてくれた友人は、
僕よりずっとかっこよかった。

着いた先は大学病院だった。
彼女は余命3ヶ月の宣告を受けて
僕から離れようとした。
デート後に別れを告げようとしたが、体調が急変して
意識が戻らないらしい。

「ねえ、何で教えてくれなかったのさ…。
 僕にいつも無理しないでねって言うのに、
 君が無理してどうするんだよ…」

友人に託された遺書代わりのラブレターを読みながら、涙が止まらない。

「勝手に終わらせないでくれる?
 僕は君と結婚を考えていたんだけどなぁ」

「…っ!」
慌ててナースコールを押す。
僕の言葉と共に彼女の目が開いた。

「…っ」
声はまだ出ないらしい。
見開いた目から彼女が驚いている事が分かる。
言葉を交わす事なく、看護師さん達が
彼女の周りを取り囲む。

検索が終わって数時間後、僕はまた会いに来た。

「おはよう…。会えてよかったよ…。
 さっきの言葉聞こえてた?勝手に終わらせないで。
 君と結婚したいんだけど」

「…っ」
涙を流しながら首を振る彼女。

「僕の事、もう嫌いになったなら結婚は諦める…。
 でもそうじゃなかったら、結婚してほしい。
 終わらせないでよ、終わらせるつもりもないよ」

「…っ」
今度は頷いてくれた。

「ありがとう。絶対幸せにするから」

あれから奇跡的に回復した彼女は、
僕と結婚して2年後にこの世を去った。
3ヶ月の余命より長く生きた彼女に医者は驚いていた。
友人は結婚式で僕らより泣いていた気がする。

「ねえ、2年だけだったけど幸せだったかな?
 僕はとっても幸せだったよ」

彼女との思い出の道を歩きながら呟く僕に
返事をするようなあたたかい風が吹いた。

 






11/27/2023, 3:06:39 PM

#愛情

愛情とは何だろう? 
思わず、辞書を取って調べる。

愛情とは、人や物を心から大切に思うあたたかい気持ち
らしい。

なるほど…。
どうやら愛情と呼ぶものは、
色々なものが対象になるようだ。

私の愛情は何に向けられているだろう…?

美味しいご飯を作ってくれるお母さん。
私の事を大好きな気持ちが隠せていないお父さん。
私に勉強を教えてくれるお兄ちゃん。
大好きな家族に向けられた私の気持ちは
きっと愛情だろう。

学校で仲の良い友達と話す時間。
ちょっと怖いけれど、話すと面白い先生の授業。
金賞目指して部活のみんなと演奏する時間。
一度しかない学生時代。
テストだったり、部活で怒られたり嫌な事もたくさん
あるけれど、毎日楽しんでいるこの時間も
きっと愛情だろう。

振り返れば、私はたくさんのあたたかい気持ちをもって
過ごしているようだ。

そしてまた、私が向けた愛情は
私に返ってきているのだろう。
だって毎日楽しいから。単純だけれど、毎日楽しいってとっても凄い事だと思う。
愛情に溢れた毎日を大切に、大好きな人達に
「ありがとう」を伝えていこうと思う。

11/26/2023, 11:37:35 AM

#微熱

「ほら、熱あるじゃない…。学校に連絡入れておくね」

幼い頃は熱が出ると学校を休んでいた。
今思えば、微熱と呼ばれるくらいだった。
それでも下がり切るまでは家で過ごしていた。

大人になった今、微熱が出ても仕事は休めない。
薬を飲んで、微熱がある事を隠して自分を騙していく。

今日も仕事の疲れが出たのか微熱が出た。
幸い、今日は休みだ。

「はぁ…、休みでよかった….」

「大丈夫?休みで良かったかもだけど…」

思わずため息と共に呟いた独り言に被せて
心配する声が聞こえた。
半年前から同棲を始めた彼氏だ。

「ごめんね、ありがとう」

「ごめんはいらないよ。頑張ったんだから」

「…っ、うん。ありがとう」

「お粥作ったんだけど…」

「えっ…!食べる食べる!」

料理なんて無理って普段言っている彼なのに。
思わず飛び起きてしまった。

「大丈夫??そんなに早く起きたら悪化するかもよ」

「あは、そうかも」

「ええ、ダメじゃん…!」

「嘘だって、大丈夫。ありがとう」

思わず彼をからかってしまったけれど、
あなたの優しさで熱も下がりそうよ。
それよりも、嬉しさで高熱になってしまうかもね?

11/25/2023, 10:34:06 AM

#太陽の下で

「ねえ、まってよ〜」

「もう、しょうがないなぁ」

ある晴れた日、近所の子ども達の声が聞こえてくる。
ねえ、昔の私達みたいじゃない?

しっかり物な私と、鈍臭いあなた。
子どもの頃は私の方が背が高くて、
いつもあなたは年下だと思われていたわね。

あの時から私の事が好きだったあなた。
男らしく見られない事が悲しくて、家で泣いていたって
結婚式でお義母さんから聞いた時は笑っちゃった。
あなたは隣で照れながら怒っていたけれどね。

あなたが隣からいなくなって、もう5年。
最初の1年は悲しくてしかたなかったけれど、
アルバムから出てきた、見た事のない
あなたの変顔写真に元気をもらったわ。
これ、いつ撮ったの?

付き合い始めは変顔写真ばかり撮っていたのが
懐かしいわ。
まさか、いなくなってからおじいちゃんになった
あなたの変顔写真を見る事になるとは
思わなかったけれどね。

ねえ、そっちの天気はどう?
こっちは良い天気よ。
早くあなたの隣にいきたいって思っていたけれど、
もう少し先になりそうよ。
だってこんなに良い天気なんですもの。
久しぶりにお弁当を作っているのよ。
太陽の下で食べるお弁当は美味しいから。

私がそっちに行ったら、一緒にお弁当食べましょうね。
あなたがいる所は太陽の上かしら?

11/24/2023, 12:10:52 PM

#セーター

"今年の冬は記録的な寒さになるでしょう"

朝、寝ぼけた目を擦りながらニュースを
流し見しているとそんな言葉が聞こえた。

嫌だなぁ、寒いのは苦手なのに。

単純に寒さに弱いだけもあるけれど、
今年の冬は1人で過ごさないといけないから。

2年前に同棲を始めた彼は、
今年の夏に仕事でパリへ行ってしまった。

来年の夏には帰って来るけれど、
同棲して初めて1人きりで過ごす冬。
そんな年に記録的な寒さだなんて。

「もう、早く帰ってきてよ…」
思わず漏れた声をかき消すかのように
チャイムがなった。

「え、こんな朝早くに誰…?」

「すみません、速達です」

「あ、ありがとうございます」

誰からだろう…。しかもこんな時間に。

「嘘…」
宛名を確認すると彼からだった。

思わず袋を破ると、中からセーターが出てきた。

"今年の冬は一緒に過ごせなくてごめんね。
 君がいなくて、パリで凍えそうだよ笑
 お揃いのセーターを買ったから送るね。
 来年の冬は一緒に過ごそうね。大好きだよ"

手紙と共に、同じセーターを着た
彼の写真が入っていた。

「もう、私も凍えそうなんだけど…笑 大好きだよ」

さっきまで寒さで震えていた体が
彼の笑顔とセーターで温まった気がした。

Next