#終わらせないで
「デート、楽しかったね!」
そう言った僕に、少し震えた声で頷く彼女の声に
何故、気づけなかったのだろう。
お互い、仕事が忙しくて久々になったデート。
彼女と過ごせる時間が嬉しくて、楽しくて、
いつもなら気付ける彼女の変化に、
気付く事ができなかった。
デートから1週間。
いつも返信の早い彼女と連絡が取れなくなった。
仕事が忙しくて1日空く事はあったけれど、
1週間は初めてだった。
次の日、
彼女の携帯に連絡を取る事はできなくなっていた。
何故、どうして…。
共通の友人であり、彼女の親友へ連絡を取った。
「私から言ったら怒られちゃうなぁ。
でも、私はこの方がいいと思っていたから話すね」
そう切り出して話し始めた友人の話に
僕は涙が止まらなかった。
「もう…泣いてないで、さっさと会いに行きなさい」
そう背中を叩いて励ましてくれた友人は、
僕よりずっとかっこよかった。
着いた先は大学病院だった。
彼女は余命3ヶ月の宣告を受けて
僕から離れようとした。
デート後に別れを告げようとしたが、体調が急変して
意識が戻らないらしい。
「ねえ、何で教えてくれなかったのさ…。
僕にいつも無理しないでねって言うのに、
君が無理してどうするんだよ…」
友人に託された遺書代わりのラブレターを読みながら、涙が止まらない。
「勝手に終わらせないでくれる?
僕は君と結婚を考えていたんだけどなぁ」
「…っ!」
慌ててナースコールを押す。
僕の言葉と共に彼女の目が開いた。
「…っ」
声はまだ出ないらしい。
見開いた目から彼女が驚いている事が分かる。
言葉を交わす事なく、看護師さん達が
彼女の周りを取り囲む。
検索が終わって数時間後、僕はまた会いに来た。
「おはよう…。会えてよかったよ…。
さっきの言葉聞こえてた?勝手に終わらせないで。
君と結婚したいんだけど」
「…っ」
涙を流しながら首を振る彼女。
「僕の事、もう嫌いになったなら結婚は諦める…。
でもそうじゃなかったら、結婚してほしい。
終わらせないでよ、終わらせるつもりもないよ」
「…っ」
今度は頷いてくれた。
「ありがとう。絶対幸せにするから」
あれから奇跡的に回復した彼女は、
僕と結婚して2年後にこの世を去った。
3ヶ月の余命より長く生きた彼女に医者は驚いていた。
友人は結婚式で僕らより泣いていた気がする。
「ねえ、2年だけだったけど幸せだったかな?
僕はとっても幸せだったよ」
彼女との思い出の道を歩きながら呟く僕に
返事をするようなあたたかい風が吹いた。
11/28/2023, 1:50:20 PM