「すれ違い」
すれ違う女子高生
すれ違うOL
すれ違…わない主婦…否、万引きGメン
問い詰める店長
悪態をつく僕
電話する店長
泣いて謝る僕
やって来る警察
連行される僕
すれ違う初恋の人
「放課後」
「ひゃー、すごい降ってきた」
突然の雨に降参した私は大きな杉の木の下で雨宿りすることにした
お気に入りの制服がびしょ濡れだ
ふふふ…でもやっぱりこの制服が一番かわいい
私はこの制服を着るためにわざわざ本土から島に引っ越して来た
女の子はかわいい制服で高校を選ぶ
後悔はしてない、仲良しの友達や両親とも離れて一人暮らしになってしまったけれど女の子はかわいい制服で高校を選ぶものだから
ズシャァァ…
山を男が滑り落ちてきた
帽子にサングラス…そしてロングコートを着た男
怪しい…この人、もしかして巷で噂になってる通り魔じゃ…?
この島は観光客が買った芋焼酎を、背後から近づき叩き割る通り魔に頭を悩ませていた
私は気づかれないように包みから弓を取り出した
「その弓で私を射るつもりか?」
男が話しかけてきた
「あなた…通り魔ね?どうして観光客を狙うの?観光客が来なくなったら島の人たちが生活できなくなるのよ?」
「私が悪魔?悪魔は人間の方だろう、私は古来からこの島を見守る神だ」
話が通じる相手じゃない…私は弓を構えた
「学生のようだが…お前は弓道部ではないな?血の臭いがするぞ」
一瞬で私のスクールバッグは奪われた
「バッグの中の…お前がこの野ウサギをやったのか?」
「私はこの先の丸太小屋で自炊してるの…生きる為に仕方なくよ」
「ではこのクリームシチューの素はなんだ?動物たちは人間のようにひと手間くわえて美味しく食べたりはしないぞ」
「………」
「このローリエは何だ?」
「…臭みを取るために」
「臭いのが嫌なら最初から食うなーー!」
通り魔は巨大コウモリに変身した
私は一瞬怯んだがすぐに矢を放つ
巨大コウモリは空に駆けあがった
二の矢、三の矢を放つ!外した!四の矢!五の矢!六の矢!七の…
「待て待て待て!なぜいきなり攻撃してきた!?やはり人間は恐ろしい生き物だ!島から人間がいなくなるまで我々は戦うぞ!」
そう言い残して巨大コウモリは闇夜に消えた
「二万円で買い取ります」
「あの…現役なんですけど?」
「二万です」
島に1店舗しかないブルセラショップは強気を崩さない
「ありがとうございました」
宣戦布告された翌日…私は大好きな制服をフェリー代に替え、火の手が上がる島をあとにした
「束の間の休息」
「新しいヤツですか?前のより自然ですね」
あれは一体どういう意味だ?
ようやく取れた休憩時間、私はトイレに籠もって考え込んでいる
ものすごく自然に出たセリフに思えた
あいつは入社2年目だぞ、あんな鋭いナイフで攻撃してくるか?
「髪切ったんですね」と変わらない熱量でカツラを変えたことを指摘された…
10年ローンの最高級品だぞ?
周知の事実だったのか?
…いつから?
ネクタイを緩めるハゲ
フランス映画を語るハゲ
ワイングラスを回すハゲ…
視界がグルグルと回り出す………ハゲ
ハゲ!
はははっ…馬鹿馬鹿しい…バレていないと思っていたのは私だけだったのか
私は窓からカツラを投げ捨てた
ハゲに悩む若者を励ますベテランハゲ
そうだ、これからはこれで行こう
カツラは次の主を捜し求めるように新橋方面に飛んで行った
「過ぎた日を想う」
「何やってんだよ、おっさん!」
またドル箱をぶちまけてしまった…これで7回目だ
「君、もう半年働いてるよね?そろそろミス減らして貰わないと…」
ガンジーと親しまれ誰にでも優しい店長のこの言葉は胸にくるものがある
パチスロ新世紀で働き始めて半年…この店の厄介者となっていた
休憩中も誰も話しかけてこない…この空気に耐えられず外に出た
公園のベンチに座り空を眺める
雲一つない青空が広がっていた
二十数年でよくここまで復興出来たものだ
1人になると救世主だともてはやされていた頃を思い出す
あれ程、平和を望んでいたのに…
暴力が支配していた世紀末、私は一子相伝の暗殺拳の使い手として街の厄介者のツボを突き膨らませる毎日を送っていた
最初はただの恋愛のもつれから使い始めた暗殺拳だったがそのうち周囲からもてはやされ、いつしか救世主として祭り上げられた
そして最後は同じ暗殺拳の使い手と戦いなんとか膨らませ世紀末に終止符をうった
良かったのは最初の三年だけだった
口下手な私は講演会でも上手く話すことができずに一回りするとお呼びがかからなくなった
パチンコの営業にも行ったが皆、台に夢中で目もくれない
そのうち金も底をつきアルバイトの毎日を過ごしている
この私が新世紀という店で厄介者とは皮肉なものだ…
「ユリアーーー!!!」
かつての恋人の名を叫ぶ
平和の象徴、ハトが一斉に逃げだす
暴力の時代、戻ってこい…!
かつての救世主は空に願った
「踊りませんか?」
彼が自宅にやって来てから二週間が経つ
チャイムが鳴りドアを開けるとそこに立っていたのは2メートルを越す大きなヤドカリ
事態を飲み込めず呆然と立っているとヤドカリは「宿を貸していただけませんか?」と一言
夫を亡くして三年の月日が「帰ってください」の言葉を飲み込ませた
最初はお互いほとんど喋ることもなかったが一週間もすると少しずつ話すようになって食事をしながら身の上話もするようになった
私は夫が3年前にカニ漁に出て帰ることはなかったという話を
彼は脱皮のため、土に潜っていて目が覚めたらこの大きさだったという話をしてくれた
カニ漁の話をする時、少し躊躇したが気を悪くした感じはなかった
どうやらカニの事を仲間だとは思ってないらしい
「彼らはカニで私はカリなので」
彼が何気なく言った一言で思わず鼻からウドンが出てしまった
それを見た彼は笑った
それからは色んな話をした、テレビの話や映画の話…みんながしてるくだらない話…それでも私にとっては久し振りで楽しくて嬉しくて…泣いた、泣きじゃくった
部屋が静寂に包まれる
彼は言った
「私に合う貝を町工場で作って貰ってます、貝が出来たらこの町を出ます、今までお世話になりま…」
「ヤドカリさん!…借りではなくずっとウチに居てくださってもいいんですよ…」
彼はレコードの針を落として言った
「踊りませんか?」
彼は優しく私を抱き寄せ踊ってくれた
そしてキス
彼のキスは蟹工船のflavorがした